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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー・ホラー風味

古代遺跡の恐らく最深部で置き去りにされた俺は、脱出に無事成功する【夏のホラー2020 投稿用】

作者: まい

 長文タイトル。



 男達がロマンを胸に、古代遺跡を探し当てた。


 その内部で起きるトラブル、そして悲劇。



 中世ファンタジー世界では、どこにでも転がっている悲劇。


 主人公と言われる者達には目撃することさえ(まれ)な、でも世界中どこにでもありふれたお話。

 気の良い陽気な仲間達と力を合わせ、古代遺跡が眠る洞窟と言われている場所へ挑んだ。


 男ばかりの5人パーティーで、それ故の気楽さと力強さでもってどんな事でも乗り越えてきた、正に歴戦のつわもの達。


 艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えた先には、広い空間があった。


 そこに存在したのは、とても不思議な建造物だった。



 不思議な材質で出来た、大きい入り口の平屋建ての建物。


 その中に入ってみると、あまり広くない空間があり、半分より左はよく分からない箱がいくつも壁にずらりと埋まっていた。


 右側は朽ちて崩れたベンチだったと(おぼ)しきものが、大量に(しかばね)として(さら)されている。


 そして入り口真正面には奥へ通じる出口が見えており、その出口を監視する詰所らしき物が、出口の脇に据えられていた。


 ざっと建物内を調べたが、あまり重要そうな物も無いし奥へ進む。



 出た先に有ったのは坑道みたいな空間と、石ともレンガとも言えない、ツルツルでありながらザラザラでもある謎の床。


 その床は横にとても長いが奥行きはあまり無く、途切れた奥は成人男性の腰の高さくらいある段差によって、落ちたら昇るのが大変そうな場所である。


 最後、よく分からない事に、段差の先と坑道らしき物は繋がっており、とても長い金属の梯子がずーーっと坑道へ寝かされたまま伸びていた。



 もしここに、異界から来た者が居たならこう言ったことだろう。


 ボロい田舎の駅舎風の地下鉄だ! と。



 だがこのパーティーには異界の者などおらず、ただただ不思議な建物だ、これこそ古代遺跡だと、強い興味で辺りを見回すのみ。



~~~~~~



「おい、地面が揺れてる。 警戒してくれ!」


 異界の者ならばホームと呼んだはずの、不思議な場所を探索してしばらく、斥候(せっこう)役の人間が地面の振動に気付いた。


 この警告を受け、残りのメンバーも思い思いの武器を構え、油断なく方々へ気を巡らせる。




「なんだあれは!?」


 警戒の果てに現れたのは、坑道の向こうからやって来た金属製の箱。


「最近街で流行っている“かすてーら”や“ヨーカン”を金属にして、繋げたような形だな?」


 連なった箱が止まると、体内へ誘うように出入り口が出来ていた。


 これも異界の者ならば電車だと言うだろう。


 更に、詳しいものだったならば、イーヒトサンヒト系だと言ったかもしれない。



 男達が少し待っても変化が見えず、武器を手に持ったままだが、取り敢えず警戒レベルを下げることになった。


「これはなんだ? 乗り合い馬車みたく、俺達に乗れって言っているのだろうか?」


 未だに動かず、無防備に腹を開き止まっている姿は、まるで乗り合い馬車だった。


 なにせ箱の内部はベンチばかりで、いかにも大人数が入れるよう造られたと見てとれるから。


 乗り合い馬車と聞いて、パーティー内で軽口の多い男が、早速軽口を飛ばす。


「つー事はだ、そんなのが整備できる重要な場所って事だ。 もしかしたら古代の元王都とかへ連れてってくれるかもな?」


 元王都……詰まるところは、王城や王宮の有るところ。


 そこに眠るは財宝……宝物。


 古代遺跡から見つかる物は、大体が高値で取引される。


 もし総取りできたら。



 ここまで考えてしまった斥候を除く4人の男達は、思わず生唾(なまつば)を飲み込み、その先で待つ優雅な暮らしにまで妄想を羽ばたかせている。


 飲み込まなかった斥候はと言えば、古代遺跡への警戒だ。


 遺跡の罠は総じて陰湿、陰惨。 そして未知の罠を解除するのは難しく、難易度が極めて高いのだ。


 斥候は罠も領分であるから、その恐さを知っている。


 他の連中ほど夢なんぞ見ていられる余裕は無い。



 4人が正気に戻り次第、危険性を()いて今回は引き揚げる気でいた斥候だが、彼らの目が覚めることは2度となかった。


 一斉に斥候へ頭を回した男達の目は異様にギラギラしていて、いくら危険性を説いても耳を傾けてくれない。



 その内この男達にすれば、斥候が宝を守る守護者(てき)に見えてきて、もっと言えば後でこっそり宝を独り占めしようとする卑劣漢(ひれつかん)にも見えてくる。

 さすが目端が効いて、ずる賢い斥候。 汚いな、さすが斥候汚い。


 いまだ見ぬお宝で頭をいっぱいにした男達からすれば、こんなものだ。



「ここで芋引く(びびる)なら、お前とはこれっきりだな!」


「今まで世話になったぜ! 次どこかで会っても、金は貸してやらないからな!」


餞別(せんべつ)に建物内で拾ったコレやるよ、じゃあな」


「ここまで来て、おめおめ帰れるか」


 立ちはだかる斥候の肩を突き飛ばし、男達は進む。


 斥候が垣間見た瞳の奥に覗く、物欲の炎が燃え盛っている。


 彼らはそれぞれ言い残し、箱へ乗り込んでしまう。


 そして間もなく箱の口が閉じ、動き出して見えなくなった。


「あいつら、斥候無しでどうやって進む気だよ」


 元仲間のひとりに押しつけられた、どう見ても価値が無さそうな謎のボロい紙を確かめながら、彼はぼやく。




 ちなみにそのボロい紙には異界の者なら読める字で、こう書いてあった。


“団体様対応 永久無料往復券”





 それからしばらく、置き去りにされたショックから立ち直るために不貞寝(ふてね)をしていたが、目覚めると再び例の箱が待ち構えていた。


「…………」


 彼は悩む。


 普通に引き返しても、ひとりではまず生きて帰れない。


 だからと言って、移動する箱に乗り込んで無事でいられる保証もない。


 手持ちの食糧だって、長くはもたない。


 ならばどうする? 生きるためにどんな行動をするべきだ?


「やはり、行くしかない……のか」


 そう。 脱出用魔法陣なんて、気の効いた物は期待できない。


 それで生にしがみつき、足掻くならばこの選択肢しかない。


 意を決した彼は、動く箱に己の全てを掛けた。



 動き出すと、彼には理解できない言語でなにかを喋っていた。


 訳すならこうだ。


「御乗車ありがとうございます。 当電車は下り、地上ニュータウン駅行き直通列車でございぃます」



~~~~~~



 箱が止まり、出口を開けた。 ここで降りろと言っている様だ。


 箱の中から外部へ、手持ちのランタンの光で届く範囲を伺うと、乗った場所とあまり変化が見られない建物があった。


「ずいぶん速く直線で動いていたのだから、別の場所であるはず」


 その辺は降りてから調べるとして、周囲に魔物が居ないか目を皿にして、全力にて探る。


 知らない場所だと、ぽけーっと辺りを見ている内に、不意打ちなんてされたら命が危ない。


 だからこそ気も手も抜かない。



 あらゆる手段で周囲を探ってから、ようやくの降車。


 もちろん降車してからも、脅威が潜んでいないか警戒を(おこた)らない。


「ん? ここはさっきとは違う場所だな」


 上下左右、辺りを見回してみるが、先ほどいた所と目立つ違いが無かったのだ。


 地上に出ました! 脱出成功です! なんて都合よくは行かない。


 だが、ホームから見える平屋建ての建物内部、その様子が少し違う所から確信した。


 特にアレだ。 この建物への出入口……つまり動く箱とは反対側に、よく分からないブツブツがいっぱい付いたクローゼットサイズの金属の塊が置いてあった。


 ひどく汚れていて分かりにくいかも知れないが、異界(中略)自動販売機(以下略)。


 忘れずに建物内全てを調べるが、やはり目ぼしい遺跡の品は見つからない。



「何かが見つかっていれば、この不安な気持ちも紛れるんだがな……」


 がっかりした気持ちを抱えつつ、生きるための足掻きを再開する彼だった。



~~~~~~



「空だ……脱出出来たんだ!!」


 斥候の男は、つい嬉しさのあまり叫んでしまった。



 あれから歩き回った結果、上へ上へとあがれる階段を見つけ、体感で10分近くはずっとのぼっていたのだ。


 そしてのぼりきった先でまた少し歩き、岩壁の隙間から光が差しているのが分かり、なんとか通れるまでにこじ開けられた。




 置き去りにされてからの苦労を考えると、叫ぶのも当然と言えよう。


 そう、彼は単独で地上への生還を、果たしたのだ。


「ここは……拠点にしている街の直ぐ近くか。 ありがたい」


 現在位置の把握をしようと見回すと、見慣れた光景が。


「つまりこの場所はアレだな。 平地に大きな石が積み上がってて、どうなってんだとみんなで頭を捻ってた、それだ。 石の下はああなってたんだな」


 記憶を(さかのぼ)れば、遺跡へたどり着くまでの記憶が湧いてくる。


「今回はあいつらと大変な目に遭いっぱなしだったな。 置き去りにされたのは悲しかったが、こうやって帰ってこられた。 あいつらも無事だろうか?」


 裏切りともとれる行為をされながらも、未だ仲間意識を捨てきれない、斥候の男だった。



~~~~~~



斥候を置き去りにした男達



 彼らはとある地点で降ろされた。


 降ろした動く箱はさっさと走り去り、移動手段は己の足だけ。


 降りた所には直線の通路のみで、左右には無数に取っ手の無い扉が開いていた。


 その扉の先は金目の物が無さそうな小部屋ばかりで、調べるのは後回しにするつもりであったのだが、全ての扉が小部屋しかなかった。


「取っ手も無いし、開けられる気がしねぇ! 壊そうとしてもビクともしねぇよ」


 それで引き返そうとしたら、箱乗り場への扉が開かないではないか。


 それで仕方なくバラバラに全ての小部屋を調べ、脱出の手がかりを探そうとしたのだ。


 …………が。



『開かねぇ! 閉じ込められたっ!?』



 それぞれが別の小部屋へ入った途端、扉が勝手に閉まった。


 小部屋内には手がかりになりそうな手がかりが無く、あちこち調べて使えそうな物を探したが、やはり見付からない。



『クソッ! ここは牢屋だったのか!!』



 全員が揃って叫ぶが、揃っていたと知るものはここにひとりも居ない。


 なぜならここは、完全密室仕様の……。



“第○○取調室”



 と入り口脇のプレートに書かれた、小部屋群なのだから。


 乗車券や、それに(たぐい)する物も持たない人間が、無賃乗車したのだ。 そいつらをこうやって強制連行出来るシステムなら、逃げられやしない。


 しかも“遺跡”だ。 ここを管理していた者は既におらず、小部屋から解放出来る権限を持った人間は、もういない。


 外からも同様。 ここを開閉できるのは基本、鉄道の治安を守る者達だっただろう。



 つまり、脱出は絶望的。 本当の奇跡とやらが起きない限り、どうにもならない。


 水や食糧を得られそうな環境は、小部屋内に無い。


 よって考えられるのは、たったひとつの未来。




 死。




 彼らは無賃乗車の罪を(つぐな)う為に、とても重い罰を課せられた。

 古代遺跡の“駅”です。 これでお題(ノルマ)は達成!




 古代遺跡で、管理者もいないのに、稼働している部分がよく有ったなって?


 そんなの、それこそ良くあることじゃないですか。


 そこらのお話で、都合の良い部分だけ動いてるなんて。




 でも都合が良い原因(それ)、あまり考えない方が良いですよ?


 考えれば考えるだけ、深みにはまりますから。


 ファンタジー世界だから、魔物のゴースト種が関係してる……ってだけなら、なあんだ。 で済むんですけどね。


 魔法だの魔力だの魔素だのマナだのと言った力ではなく、だからと言って電気でもない、未知の何か。


 それが古代遺跡の遺物を動かしていたら?


 とても高位の神官が放つ、浄化系の魔法であろうと、浄化出来ない何かが動かしていたら?




 いや、そうではない。


 古代遺跡を遺跡とした、想像もつかない何者かが、何かの気まぐれで維持しているとか?


 いったい何が遺跡を稼働させているのやら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界から見たら、現代も立派な異世界……かぁ。
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