もしかしてここは…。
憧れの場所。
憧れの人。
憧れの自分。
ふと気がつけば、すべての理想が今ここに揃っていた。
もしかしてここは夢?
私は夕陽に照らされる部屋の中、そっと自分の頬をつねってみた。
その頬からは、痛みを感じた。
思い返してみれば、始まりは唐突だった。
とある日の正午、彼に突然呼び出しをくらい、彼のところに行ったら突然彼から一言。
「俺と付き合ってくれ」
と。
彼と私の関係はというと、ただのサークルの憧れの先輩と後輩。
けど、私が大学一年生なのに対し、彼は大学のOB。
彼が卒業してからも、彼に憧れている生徒は多く、生徒に限らず一部の女性教員までもが虜となっていた。
そんな彼がどうして急に。
私は訳が分からずも、憧れの彼を前に、「はい」と返事をすることしかできなかった。
そんな出来事があってから、そろそろ一月が経つ。
彼から同棲を誘われたのを機に、私は親元から離れて彼と二人暮らしを始めた。
今思えば、変な話だ。
普通、付き合ってから一月も経たない内に同棲を決めるなんて有り得ないこと。
ましてや、お互いのことをよく知らない者同士で異性と二人きりなんて、危険極まりない。
だが、両親には、
「そろそろ二年になるのを機に独り立ちして、一人暮らしの厳しさを知りたい」
と言ったら、涙を流して賛同してくれた。
なんだか申し訳ない気持ちにはなったが、憧れの彼を前にしたら、仕方ないことなのかもしれない。
「どうしたの?」
「あ、ちょっと考え事。今起きてるこの状況…やっぱすごいなって」
「…うん。俺がこうしたかったからこうしたんだ」
彼は、この会話になると大体こんな感じで受け流す。
実は彼、大学内だけでの人気者なだけではなく、世間に出ても少し知名度の高い人物。
だから、そんな彼と同じサークルということはかなり誇れる。
そんな中、どうして私だったのかは謎だけど…。
「ねえ…」
「何?」
「今って…夢じゃないよね…」
「そうだけど…どうして?」
「今、こんなにも憧れの環境にいる自分が信じられないから…。言葉にしないと、実感できないの。今こうして、あなたがそばにいてくれてることが本当に幸せ。私を選んでくれて、ありがとう」
彼は少し驚きつつも、小さく頷いた。
憧れの場所。
憧れの人。
憧れの自分。
これは偶然?それとも必然?
それは私にはわからない。
けれど、もし彼が私の運命の人なんであれば。神様が巡り合わせてくれた人なんであれば。
これはきっと、必然的なことだったのかもしれない。
初めましての方は初めまして、別作もお読みくださった方はいらっしゃい!
天河蒼夏です!
久しぶりの投稿です。
今作は、憧れの世界で生きる、という物語を書いてみました。
たまにはいいのかもしれませんね。
日常の喧騒から抜け出して、憧れの世界で生きてみるのも…。(そう簡単には抜け出せないのがこの世の中なのですけれど)
辛い日常から逃げたくなった時には、夜、寝る前に少しだけでも妄想する時間を作ってみてください。きっと、その日の疲れが少し安らぎます。
妄想は、自分の理想の世界。誰にも迷惑をかけないから、何をしても怒られない。
また、逃げても問題なさそうなことなら、逃げちゃってもいいんですよ。
それでは、最後までお読み頂き誠に有難うございました!