二人の私、愛しき人よ
縮こまってキツく縛って沈めて…
視界に映るその揺らめきはキラキラと七色に光る。
私が消えていく。それがこの上なく嬉しい。
さようなら、私。
そしてありがとう、私。
私と私は入れ替わる。何事もなく日常は流れる。
けれど私は知っている。あなたは誰よりも尊いお方。私も知っているよ。君は何者よりも強く美しい。
手と手を取り合い交わったたくさんの思い出が、鮮烈に脳内を突き抜ける。
誰よりも愛しいあの人はあなたに託そう。彼は私を忘れない。あなたが私になるから。顔も声も表情さえ等しい私たちを見抜ける者はない。
だから彼もわからないはずだ。それが少し寂しい。けれどホッとする。だって、わからなければ彼が悲しむことはないから。
神様がいたら呆れるかしら。こんなに愚かな私を。
愛していました。
だから私は消え行くのです。
お迎えが来たようだ。さようなら、愛しい君よ。私の全てをかけて君の愛しき人を守ろう。そのためなら私の心すら捨てよう。君への思いは届かないけれど、君の思いが彼に届くように。
一人の私は消え、一人の私は私になり、そして彼は騙される。
三人の思いはすれ違い、儚く散って死に絶える。
神は嘆く。どうして人は人を愛するのか。思いが人を殺すのに。
誰も救われないお話は、結局誰にも知られずに、今もなお海の底に沈んでいるのだ。