エッセイ「魔法瓶」 2018 6 8
魔法瓶
小6のときは網走に住んでいた。札幌から来た僕はなんだか浮いていた。そこそこもてはやされまずまず嫌われた。ペースがわからかった。給食のメニューが札幌と違っていてなんとなく異国を感じた。自分で言うのも何だけど成績も良かったしスポーツもできた。そこそこもてはやされますます嫌われた。
優しかった何人かがある日変わっていく。今でいうネタにされたというか、いじくられたというか、バカにされたというか、いじめられたというか。じゃれあいのレベルは超えていた。
暴力まではいかない言葉の暴力。ショックをうけた。知らないうちに僕は杭になって打たれていく。そのいじめのボスがなんだか同じ班になって遠足に行くわけで。
魔法瓶にお茶を入れて持たされた。その頃僕は何も失敗しないように気をつけた。何かあれば揚げ足を取られる。何かあればいやらしいヒソヒソ話が聞こえてくる。
カシャンといって割れた。魔法瓶は割れるものだとは知らなかった。家族の歴史の魔法瓶。小さな頃から家にあった魔法瓶。弁当を食べるとき割れるなんて思わないから雑に置いた。
「カシャン」。
お茶が全部こぼれていく。お茶を地面が飲んでしまう。
誰かに見られたか。隠さなくては。これを見られたら格好のいじめのネタになってしまう。周りはひょっとするともう僕を視線で取り囲んでいるかもしれない。
ボスが僕を見ていた。終わったと思った。すると笑ってこういった。
「お茶を分けてあげるよ」って。
「このお茶飲もう」って。
「分けてあげるよ」って。
僕はなぜかキレた。情けない気持ちがはじけてしまって。魔法瓶は割れお茶はなくなりそれがバレ。1番見てほしくない彼にバレ。先生なんか目に入らず、一気に視野が狭くなって、彼を睨んでこういった。
「ありがとう」って。
キレている僕に彼はもう一度言った
「このお茶飲もう」って。
情けなくてその後のことを覚えていない。ほどなく訪れた夏に僕は逃げ込んだ。
夏休みが明けて学級の外に遠足の写真が貼り出された。僕らは自分がほしい写真の番号を封筒に書いた。一通り見ていくと僕の写真も彼の写真も貼られていた。彼と一緒に写った写真は買わなかった。魔法瓶が写った写真も買わなかった。何も買わなかったら親や先生に何かを言われるかもしれない。適当に番号を2つ3つ書いた。
写真が出来上がってクラスで見せ合っこが始まった。ボスが僕との写真を見せてきた。この写真買ったかいって聞いてきて。どうでもよくなって。
「僕も買ったよ」って。
「僕も買ったよ」って言った。