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不登校のユウ

作者: しろねこ


途方もなく遠い距離の道を歩いていく。そこに、自分が待っている結末があるとは限らないのに。何で歩くのを止めないのだろう。何故、そんなことが出来るのだろう。僕は、不思議だった。

ベッドに仰向けで寝て、漫画を読んでいる僕には到底出来ない。


それは、まだ梅雨の季節が始まったばかりで、つまらない毎日を生きている最中だった。憂鬱がまとわりついて、自分のことなんて何一つ分からなかった。

例えば、何がしたいのかだとか、何を信じて何を大切にすればいいのかが分からなかった。



朝起きて、学校へ行って授業を受けた。帰って、宿題をする。また明日の準備をして、眠りにつく。そんな毎日が、退屈だった。抜け出したかった。

だから、不登校になった。

それは、単純すぎる行動で、何も考えていないと思われても、仕方がなかった。

先生や親に、「学校へ行かないと将来後悔する。」と言われた。

でも、そんなことは関係なかった。大人になったら、否応なく働いて自分で生計を立てなければならない。それだったら、現在くらい自分の好きなように生きたかった。

「自分らしく」生きるには、どうすればいいのか考えた。そして、果たして自分らしく生きられるのかは不明だった。世の中には、成功者と言われる人もいれば、死に追い詰められる人もいた。その違いは分からなかったが、きっと今の僕は、世間から見れば「負け犬」だということは、なんとなく想像できた。


カップ麺を食べながら、バラエティ番組を見ていた。お笑い芸人が熱湯風呂に飛び込んだり、今人気のアイドルが大笑いしたりしている。

「それが本当にやりたかったことなの?」

そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

「テレビに映っているのは、誰のため?自分のため?」

きっと、夢だったのだろう。でも、今はそんなことをしているのだろう。

夢や希望を持つ者が素晴らしい、そんなことは思えなかった。きっと、どこかで挫折をしてしまうのに。夢を叶えることができるのは、一握りの人間なのだと思った。でも、どこかで夢を叶えることと幸せになることは、別なこととも感じていた。

 

カップ麺を食べ終えてテレビも消して、時計は日付が変わろうとしていた。立ち上がって部屋へ戻ろうとした時、父親が仕事から帰ってきたようだった。

「ユウ。ちょっと話をしないか。」

そう言われたので、食卓テーブルの椅子に座った。

「学校へ行かなくなって、毎日楽しいか?」

「楽しいよ。」

僕は、俯いた。

「将来のことは、考えているのか。」

「考えてないよ。」

「父さんは、学校へ行くことだけが人生じゃないと思う。」

「え。」

「思う存分、今を楽しみなさい。」

そう言って、父親は浴室へ行った。

 意外だった。親として学校へ行かない子供は、問題児だと思っていた。それとも、心の中では問題児だと思っているのか。そんなこと分からなかった。

 ただ気付いたのは、自分は甘えられる環境にいること。甘えていることだ。そして、そんな自分を恥じた。


 現代では、インターネットが普及しているので、莫大な量の情報が行き来していた。嘘か本当か分からないものもあるし、自分で何が正しいのか見極めるのは難しかった。

「不登校」と検索すると「不登校が年々増えている。」だとか、「子供が不登校になってしまった。」とかいうネガティブに捉えられた言葉が浮き上がってくる。

「学校へ行けない(行かない)から、普通じゃない。」

そんな風に、聞こえてくる。

「学校へ行けないと生きていけないのか。社会に出たら、クズ扱いなのか。」

 僕は、吐き気がした。

「でも、そうだよな。」

 そんな気がした。学校へ通っている学生は、勉強をして将来に備えている。不登校が悪いことだとは思いたくなかったが、自分は何処にも行けなくて何処にも進んでいない気がした。確かにそうだった。

 

眠りにつこうとしたけど、なかなか眠れなかった。

将来をどうするか考えてみたけど、良い案は浮かばかなった。何にもなりたくない。それは、本音かもしれないけど、許されるものじゃない気がした。今からだったら、何にでもなれるかもしれない。じゃあ、何になればいいのだろう。そんなシャボン玉みたいな淡い期待と儚い願いは、すぐ消えていってしまう。辛いわけじゃない。でも、目の前に道は無くて、自分で切り開くには弱すぎる意思と無力な自分だった。

「どうすればいい。」

 そんな非力な声は、社会にとって邪魔なだけで、すぐかき消されてしまった。


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