Episode 93
マリベルに街で会った翌日。
「俺、ちょっとひとりでギルドに行ってくる」
レイフォンは突然と言い出した。
「ギルド? どうしたのよ突然?」
「どうしてギルドなのレイフォン?」
アシュリーはともかく、今日も朝から普通にレイフォン達の宿屋の部屋に訪れていたミリベアス。
「金欠なんだよ」
レイフォンが言ったことは嘘ではない。
「お金なら私が持ってるわよレイ?」
「わたくしも持ってるわ」
ミリベアスは白金貨を見せてきた。
「いや……それはお前らの金であって俺の金じゃないだろ?」
「わたくし達は夫婦になるのだからーー」
「お前とはならねぇよ!」
レイフォンはミリベアスに瞬時につっこんだ。
「とにかくだ……俺は今からギルドに行って依頼を受けてくる」
「なら、私もついていく」
「いや、俺だけで行ってくる。だからアシュは適当にのんびりして待っててくれ」
「わたくしは?」
「お前は(魔国に)帰れ」
ムッとした表情を見せ、ぷくっと頬を膨らませ口を尖らせるミリベアス。
アシュリーも少し拗ねたような表情をしている。
「ミリベアスは知らないけど、アシュまでそんな顔するなよ? すぐに帰ってくるからさ、な?」
「べ、別に拗ねてないわよ……行くならさっさと行ってきなさいよ!」
明らかに拗ねているアシュリー。
そんなアシュリーを見たレイフォンは苦笑いをしたあと
「……まっ、そういうことだから行ってくるな。じゃ!」
と言うと姿を消したのであった。
ーー
部屋に取り残されたアシュリーとミリベアスのふたり。
「アシュリーいいの? レイフォンを追いかけなくて?」
「たぶん追っても無駄ですよ……レイはああ見えて頑固ですから」
「そうなの?」
「はい……まっ、依頼を受けて済ませたらすぐに戻ってきますよ。だからミリベアスさんもレイを追いかけようなんて考えないでくださいね?」
「……わかったわ。正妻がそう言うのなら私もレイフォンを待つわ」
「せ、正妻って……ミリベアスさんはほ、本気なんですか?」
顔を赤くして尋ねるアシュリー。
「本気よ?」
表情を変えずに言葉を返すミリベアス。
流石のアシュリーもレイフォンとの結婚のことまでは考えていなかった。
レイフォンと結婚をしたくないという意味ではない。
「そう……なんですか……」
なんと言葉を返したらいいのかわからないアシュリー。
「アシュリーはレイフォンのことが好きなのよね?」
「それは……はい……好きです」
ミリベアスに直球に尋ねられたアシュリーは恥ずかしそうにしながらも素直に答えた。
「レイフォンもアシュリーのことを好きなのよね?」
「えっと……たぶん……そうだと思います……」
アシュリーの声は後半になるにつれて小さくなっていた。
レイフォンは自分のことを好きと言ってくれた。
だが、レイフォンとアシュリーふたりの関係はまだ幼馴染みだけのままである。
なので、アシュリーは自信を持って「はい」とは答えれなかった。
「ふーん、それでどこまで進んでるのあなた達? 一緒に寝てたでしょ?」
「あ、あれは! その……節約といいますか……なんといいますか……横になって一緒に寝ているだけでですね……だからですね……」
アシュリーの目は泳いでいた。
「もしかして本当になにもしていないの? 男と女が同じベッドで寝て?」
ミリベアスは呆れたようにため息をついた。
「な、なにってなんですかミリベアスさん!」
「なにって? それはーー」
「うゎああああ! 言わないでくださいミリベアスさん!」
真っ赤な顔でアシュリーは叫び、ミリベアスが口に出そうとした言葉をさえぎったのであった。
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