Episode 89
宿屋のベッド。
レイフォンの隣には気持ち良さそうに寝るアシュリーの顔があった。
そんなアシュリーの頭を優しく撫でたあと、レイフォンはベッドから降りた。
現在は深夜である。
『神様? 起きてるか?』
『うん、起きてるよレイフォン。あのミリベアスって少女のことだよね?』
『そうだ』
レイフォンは離れた神様に言葉を送っていた。
『あいつは人間ではないよな?』
『やっぱりレイフォンは気づいていたんだね……』
『まぁな……人間の魔力とは違うものを感じたからな。あれは……魔族と同じ魔力だった』
『流石だね。それでレイフォンはどうするんだい?』
『俺は別に何もしない。ただの確認……のつもりだけど事情が変わったみたいだ。また、連絡する』
『ちょっ! レイフォン?』
神様との会話を途中で終わらせたレイフォンは魔法で屋根の上へと移動した。
ーー
「あら? わたくしに気づいたのね?」
屋根の上にはミリベアスが立っていた。
「こんな時間になんの用だ? 魔族?」
「へぇ~……そこまで気づいているなんて貴方は何者かしら?」
目を細めるミリベアス。
「俺はアシュの幼馴染みだよ。それで、お前はアシュの剣でも奪いにきたのか?」
「貴方ちょっと鋭すぎない?」
右手の人差し指を口元におき、首を傾げるミリベアス。
「残念だがお前じゃあの剣は奪えない」
「アシュリーでしたっけ? あの娘を殺しても?」
「お前には無理だよ。つか、俺がさせるかよ、っと」
レイフォンは瞬時にミリベアスのうしろに移動して肩に手を触れた。
すると
「!?」
「アシュが気持ち良さそうに眠ってるんだ。あんな場所でお前に暴れられたらアシュが起きてしまうだろ?」
レイフォンはミリベアスごと一緒に、誰もいない荒野へと転移したのである。
「貴方の魔法なの? 人間は詠唱を唱えないと魔法は使えないとわたくしはお父様に教えて貰ったのだけど?」
「お前の父親が誰かは知らないけど詠唱なしに魔法を使える人間はいるんだよ。覚えとけ」
「そう……あの娘を殺すってのは冗談だったんだけど、貴方は私をどうする気なの? わたくしが魔族だから殺すのかしら?」
転移した直後は少し驚きを見せていたミリベアスだが、今は落ち着いていた。
「いや、お前がアシュの剣を諦めて変なちょっかいを出さなければ見逃してやる」
「ふーん……人間のくせにわたくしにそんな上からものを言うのね貴方は?」
「人間とか魔族とか関係ねぇよ」
「そう……わかったわ。なら貴方がもしも、わたくしに勝てたら、わたくしはあの剣は諦めるわ。安心して、殺しはしないから」
「それはどうも」
「けど……全力を出さないと死ぬわよ?」
鋭い目に変わったミリベアスの体からは黒い魔力が溢れだした。
「そっか、とりあえず俺が勝てばいいんだな? オッケー」
対してレイフォンはのんきに言葉を返した。
そして
ミリベアスはレイフォンから距離をとり構えた。
「なら、いくわ……避けないと体がーー」
バラバラになると
ミリベアスはそう言おうとしていた。
だが
「体がどうしたって? はいチェックメイト」
ミリベアスが言葉を言い終わる前に勝負はついてしまったのである。
それは
氷の槍がミリベアスの頭の額、首、心臓を1センチもない距離で狙っていたからだ。
一歩も動けないミリベアス。
ミリベアスは動揺していた。
「動いたら死ぬぞ?」
「ぐっ!」
悔しそうに唇を噛み締めるミリベアス。
「俺の勝ちだな」
ニコッと笑うレイフォン。
同時に氷の槍は消え、ミリベアスは膝から崩れ落ちた。
「な、なに今の……ありえないわ……こんなはずじゃ……」
「知らねぇよそんなの」
「だって……だってわたくしは……魔王の娘なのよ!」
ミリベアスの口から言い放たれた衝撃の事実。
だが
「それで?」
とレイフォンは興味なさ気に言葉を返したのたであった。
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