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Episode 84

 マリベルはこの街に来て(潜伏しはじめて)から毎朝ジョギングをするようにしていた。


 そんないつもの朝。


 マリベルがまだ人通りの少ない道を走っていると


「子犬?」


 まだ開店前の飲食店の前で丸くなっている子犬を発見したのである。


「クゥーン……」


 マリベルと目があった子犬は小さく吠えた。


「お腹が空いているのかしら? どうしまょう? そうだわ! 子犬さん? 私が今暮らしているところにくる? そこになら食べ物はあるのだけど?」


 しゃがんで子犬に話しかけるマリベル。


 すると


「ワン!」


 子犬はマリベルの話がわかっているのか尻尾を振り吠えた。


「ふふっ、わかったわ。なら行きましょう」


 マリベルは子犬を抱きかかえて現在潜伏している小さな屋敷へと向かったのであった。


 ーー


「ただいま」


「おかえりなさいませ姫様……って!? その子犬はどうしたのですか?」


 マリベルが抱きかかえる子犬を指さして話しかけてきた護衛。


「お腹を空かせているみたいだったから連れてきたのよ?」


「それで姫様は食べ物をその子犬に与えたあとはどうなさるのですか?」


「私が面倒をみるわ。だってまだ子犬なのよ? 可愛いそうでしょう?」


 護衛はマリベルの予想通りの答えに溜め息をついた。


「ですがーー」


「いいじゃない癒しは必要よ? そうですよね姫様?」


「そうよ」


 マリベルに賛成を示したのは唯一の女性護衛。


「自分もいいと思います。お前は少しピリピリしすぎだ」


 もうひとりの護衛もマリベルに賛成した。


「……わかりました」


「なら先にこの子をキレイにしてくるわね」


「はい。その間にお食事の準備をしておきます」


「ありがとう。行きましょう子犬さん?」


「ワン!」


 そして、マリベルは子犬と一緒に浴室へと向かった。



 マリベルの姿が見えなくなったあと。


「姫様、嬉しそうな表情をしていたわね」


「そうだな。まっ、このぐらいのわがままはかまわないだろう」


「……確かにな」


「おそらくは宰相閣下もお亡くなりになられた可能性は高いわ。きっとそれは姫様もわかっているはずだわ」


「ああ……姫様はこの街に来てからは悔しそうな表情は見せるが、悲しそうな表情は俺達に見せていない」


「あの子犬が少しでも姫様の癒しになってくれるといいわね」


「お前達はそこまで考えていたのか……自分は……」


「あんたは脳筋なのよ」


「……」


 マリベルのことを話す護衛三人であった。


 ーー


 浴室。


「ほら、キレイにしましょうね」


 マリベルに体を泡だらけにされて洗われる子犬。


 子犬はぐすぐったそうに目を細めている。


「あら? この子の額に何か書いてあるわ? なんて書いてあるのかしら?」


 マリベルの知らない文字。


「ワ、ワン!?」


「ちょっと急にどうしたの?」


 マリベルの手元から離れて、急に浴室の鏡へと駆け出した子犬。


「鏡? どうしたの?」


 じーっと鏡に映った自分の顔を見る子犬。


 額にはこう書いてあった。


『阿呆犬』


 子犬は思った。


(レイフォン! いつのまにこんな文字をボクの額に書いたんだよ! しかもまた消えないやつだよね!)


 子犬の正体は先に旅に出ていた(家出していた)神様であった。


 


お読み頂きありがとうございました。

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