Episode 83
テスターの街。
窓の外を眺めて呟く十歳ぐらいの少女。
「レイ兄さんは今頃はどこにいるんだろう……」
その時、玄関のドアが開く音がし、少女はそちらに振り向いた。
「ただいま! アイラお姉ちゃん!」
「おかえりルン」
「ほら! みてみて! パンもらったの! 晩ごはんにどうぞって」
紙袋に入ったパンを嬉しそうに見せる7歳ぐらいの少女。
「定食屋さんの奥さんね? ちゃんとお礼は言ったの?」
「うん!」
「そうか……よかったわね」
「うん! 一緒に食べようねアイラお姉ちゃん!」
ふたりはレイフォンがベロアの街で助けた姉妹アイラとルンである。
現在はテスターの街のレイフォンの家にふたりで暮らしている。
この街で生活をはじめて約三ヵ月。
ふたりは充実の毎日を過ごしていた。
レイフォンの言った通り、この街の人達は優しく
いいひと達ばかりでふたりも今ではいろんな人達から可愛がられていた。
レイフォンの妹として。
「ねえ? アイラお姉ちゃん?」
「どうしたのルン?」
首を傾げてアイラに尋ねるルン。
「レイお兄ちゃんはいつ帰ってくるの?」
「……ごめんね。私にもわからないの」
「そっか……わたしね、レイお兄ちゃんが帰ってきたらありがとうって言うの!」
アイラの返答に少しだけ残念そうな表情を見せたルンだが、すぐに明るい表情へと戻り宣言した。
「ありがとう?」
「うん! わたしね今いっぱい幸せなの! 目も見えるようになってね、それでね、暖かいお布団で眠れるようにもなって、それと……それとね、街の人達もみんな優しくて、だからね、レイお兄ちゃんにありがとうって言うの」
一生懸命に笑顔で話すルン。
「そうね……ならその時はふたりでありがとうってレイ兄さんに一緒に言いましょう」
「うん!」
微笑んでルンに言葉を返したアイラ。
ルンはそれに元気に返事したのであった。
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ウェスタリア王国王都。
「アシュリーはちゃんとご飯を食べているのだろうか……変な男に……ああ……心配だ……」
「レオン? それ何度目? しつこいわよ」
「アシュリーなら大丈夫だ心配するなレオン。今はそれより、突然と魔族達が人間の国を攻めるのをやめて姿を消した話だろ?」
「それよりとはなんだマット! 僕はアシュリーのことを考え過ぎて夜もまともに眠れないんだ!」
先程からアシュリーのことばかり話す未練がましい勇者レオンに、呆れた表情を見せる勇者パーティーメンバーのミミーとマットのふたり。
三人が今いるのは王都の酒場である。
「それでマット? やっぱり魔族達が突然姿を消した理由とかはやっぱり?」
「わかっていないみたいだな」
ミミーの言葉にマットは首を横に振った。
レオンをスルーして話をはじめる2人。
「そっか……不気味過ぎるわよね……人間の住む地域から一斉にって話でしょ?」
「ああ、そしてこの一ヵ月はどこの国にも魔族の目撃情報はない」
「何を企んでるのかしら? やっぱり魔王の命令よね? 魔族達を一斉に退かせるなんて魔王の命令ぐらいしか考えられないわ」
「そうだな……とにかく俺達は次の魔族達の襲撃に備えるのみだ。あの時のような無様な姿はもう見せん」
「うん……私も。アシュりんもきっと頑張ってるんだろうしね」
「だな」
「アシュリぃいいいい!」
いきなり叫びだしたレオン。
「ぐへっ!」
「「黙れレオン!」」
ミミーからは顔を殴られ、マットからは頭をチョップされる完全に酔っぱらっていたレオンであった。
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