Episode 81
小国イルガリア王国。
「姫様……もうこの国はもたないでしょう……」
姫様と呼ばれた少女の名前はマリベル・イルガリア。
この国の第一王女である。
「本当にこの国はだめなの? 無くなってしまうの? 三大国の勇者様は助けに来てくださらないの?」
マリベルの言葉に、この国の宰相である老輩の男性は首を横に振って言葉を続けた。
「残念ですが……それと……国王様も王妃様も、姫様の兄君であられる王子様もおそらくはもう……」
「そんな……」
宰相の言葉に悲愴感を漂わされる表情のマリベル。
現在、マリベルは宰相と三人の護衛とともに城から離れた屋敷に身を潜めていた。
「どうして……どうしてなの……つい最近までは平和だったこの国が……どうしてなの…………」
理由は知っていた。
魔族である。
小国ながらも平和で豊かなこのイルガリア王国に魔族達が攻めこんで来たのである。
勇者がいる三大国でも魔族に対して劣勢を強いられる状況であり、勇者もいない小国となるとどうすることもできない状況であった。
魔族達が攻めこんで来たとの報告が入って現在3日目。
すでに、城にも魔族達が攻めいっていた。
「姫様どうかお逃げくださいませ」
「いやよ! だってまだお父様もお母様もお兄様だってーー」
「言うことを聞きなさいマリベル!」
声を上げて拒否するマリベルを宰相は大きな声で一喝した。
戸惑うマリベル。
「……爺?」
「宰相としてだけではなく祖父としても私は言っているのだマリベル」
血の繋がりはないが、宰相はマリベルが生まれた時からずっと我が孫娘のように可愛がっていた。
マリベルも同様に宰相のことを本当の祖父のように慕っていたのである。
「だけど……」
「おそらく……イルガリア王家の血をひく者はマリベル、お前しか残っていないのだ。もしも、マリベルまでもが命を失ってしまえば……この国、イルガリア王国は本当になくっなてしまう。それだけは絶対にあってはいけない。それと……私は可愛い孫娘のマリベルには死んでほしくない」
最後に柔らかな表情をマリベルに見せた宰相。
「わ、私はお兄様とも違って賢くもないし、常識だってない……ワガママでいつも爺達に迷惑ばかりかけるような15の小娘よ……」
「そうだな……けど、それをマリベルは自分でわかっているじゃないか? マリベルはやればできる娘なのだよ。だからお願いだマリベル……この国をなくさせないでおくれ」
混乱しているマリベルに対して宰相は落ち着いて柔らかく言葉をかけていた。
「爺も……爺が私を助けてくれるなら私はーー」
「それはできない。私は最後までこの国に残らなければいけない」
「どうしてよ!」
「まだ生きている国民や頑張っている兵士もいる。それなのに私まで逃げてどうする? だから、あとのことはマリベル、いえ、マリベル・イルガリア第1王女の姫様に託します。私がいなくとも姫様なら大丈夫です。私が保証します」
「そんなの……そんなの嫌! うっ!」
マリベルが大声を上げた瞬間だった。
護衛のひとりが後ろからマリベルの首もとに手を振りかざしたのだ。
意識を失って倒れたマリベル。
「宰相閣下……本当によろしかったのでしょうか?」
「仕方がないのだ……時間は……魔族達はまってくれないのだからな……」
「そうですが……」
仕方がないことだとわかっているが、やり方に納得のいかないといった表情の護衛。
「そんな顔をするな。姫様のことはお前達に頼んだ……準備ができたらすぐにこの国から離れるのだ、いいな?」
「「「はっ!」」」
宰相の言葉に護衛の三人はびしっと敬礼して見せた。
最後に宰相は気を失ったマリベルを見て、優しそうな表情を浮かべたのであった。
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