Episode 8
アシュリーに招集命令が届いてから二週間後。
王都へとアシュリーが旅立つ日が訪れた。
「アシュリー様万歳!」
「アシュリー様、お体にはお気をつけて」
「アシュリー様、どうか勇者様と共に魔王をお倒しください」
「アシュリー様がんばって!」
「アシュリー様、私達はアシュリー様のお帰りをお待ちしております」
テスターの街の門の近くでは朝から街の人々が勇者パーティーメンバーに選ばれ王都に旅立つアシュリーを見送る為に大勢集まっていた。
「皆様、本日はお見送りありがとうございます! 私は必ず魔王を倒して、このテスターの街に必ず帰ってきます!」
笑顔で街の人々に挨拶をするアシュリー。
だが……
この場所にレイフォンの姿はなかった。
ーー
「しかし、レイフォンのやつ、どこにいきやがったんだ?」
「そうだよな。あんなに仲の良かったアシュリー様が勇者様パーティーのメンバーに選ばれて、今から王都に旅立つっていうのにな」
「意外とアシュリー様との別れが悲しくて家でひとり泣いているのかもな」
「まっ……でも気持ちがわからないわけじゃないよな……」
「「だな……」」
街の人々の声。
「レイ……」
アシュリーは悲しそうな声で誰にも聞こえないように小さく呟いた。
アシュリーが勇者パーティーメンバーに選ばれた事がテスターの街で正式に発表されてからはアシュリーはレイフォンに一度も会っていなかった。
そして、自らの言葉でレイフォンにこの事を伝える事も出来ずに、この日を迎えてしまっていた。
しかしながら、アシュリーが勇者パーティーメンバーに選ばれ、王都に旅立つ日の事は街中に広がりほとんどの人々が知っていたはずだった。
おそらくそれは、レイフォンの耳にも届いているはずである。
それなのに……レイフォンは現れない。
「アシュリー様、そろそろ」
「わかりました……それでは皆様! 行ってまいります!」
馬車の従者に声をかけられ、アシュリーは街の人達に最後の挨拶をした。
「アシュリー、気をつけて行ってくるんだよ。レイフォンに会ったら私が文句を言っといてやる。「姉の見送りに来ないとは何事だっ!」とな」
「ふふっ、お願いしますお父様。では、行って参ります」
父アスラ伯爵との冗談を交えた別れの挨拶を済ませたアシュリーは馬車へと乗り込んだ。
そして……
結局、レイフォンの姿が最後まで現れる事はなく、馬車は動き走り出しアシュリーはテスターの街を旅立ったのであった。
ーーーー
王都に向かう馬車にはアシュリーと女性の従者のふたりだけ。
「アシュリー様? 顔色が悪い様ですが大丈夫ですか?」
「平気よ。ありがとう」
アシュリーはレイフォンの事を考えていた。
(確かに、直接伝えなかった事は悪いと思っているわ……だけど……どうして見送りにも来てくれなかったのよ……レイ……もしかして……私、嫌われちゃったのかな……)
心の中で呟き落ち込むアシュリー。
ーーその時だった
馬車が突然止まった。
「どうしたの?」
「アシュリー様、お客様みたいです」
急に馬車が止まった事に何事か、と気になりアシュリーは従者に確認の為に声をかけたが……返ってきた返事はよくわからない言葉だった。
「お客、様?」
「はい。アシュリー様、馬車を降りてみてください」
従者の表情をみる限り危険はなさそうだと、アシュリーは言われた通りに馬車をゆっくりと降りた。
するとーー
「アシュ! 俺に何も言わないで行くなんてお前は何様のつもりだよ!」
聞き覚えのある少年の大きな声。
その声の方向へと振り向くアシュリー。
そこには少年、いやレイフォンの姿があった。
「レイ……?」
そして、レイフォンはゆっくりとアシュリーの目の前まで歩いて来た。
「何だ? そのしけた顔は? そんなんで魔王なんて倒せるのかよアシュ?」
いつものレイフォン。
いつもの声で生意気そうな口調のレイフォン。
いつもアシュリーと一緒に居たレイフォンの姿。
たった二週間ほど会わなかっただけなのに、アシュリーにはレイフォンの姿、声、話し方に懐かしさを感じていた。
「そんな顔してないわ……それにさっき私に何様ってレイは言ったわよね?」
「言った、けど?」
いつものトーンとは違うアシュリーの声にレイフォンは少し首を傾げて答えた。
「私は……私はアシュリー様に決まってるじゃない! この遅刻魔! レイはいつも遅いのよ! バカ……」
いつものレイフォンに対して偉そうなアシュリーの言葉。
だが、アシュリーの表情は先程までとの暗い表情とは違い、とびきり笑顔の表情をレイフォンに向けていたのであった。
お読み頂きありがとうございました。