Episode 78
「アシュ落ち着け! 話せばわかる……俺は別に悪気があって……」
悪気はあったレイフォン。
「(死ぬ)覚悟は決まったレイ? わたしに激辛唐辛子スープを飲ませるつもりだったのよね?」
刀身から炎が湧きあがる剣を振り上げているアシュリー。
「はははは……アシュは大の辛党じゃなかったか?」
「違うわ」
「ですよね……」
アシュリーを落ち着かせる方法は何か頭をフル回転させ考えるレイフォン。
「アシュ……少し交渉をしようじゃないか?」
「交渉?」
「しばらくその剣を貸してやるから許せ」
「レイが死ねばこれは私のものよ?」
どこの盗賊だと思ったレイフォン。
「わかった……やる……その剣をアシュリーにやるから許せ」
「だからーー」
「俺が死ぬとその剣は消滅する」
嘘である。
だが、アシュリーは信じた。
「……わかったわ……今回だけよ」
「お、おう」
なんとかピンチを脱したレイフォン。
代償がまさか魔法剣になってしまうとは思わなかったが……。
「なら、その剣の持ち主登録の変更をするから、剣を前に差し出せ」
「こう?」
レイフォンに剣を突きつける形のアシュリー。
「……俺を切るなよ」
「斬らないわよ! ……たぶん」
「おい! ……とりあえず、っと」
レイフォンが手をかざすと剣全体が光に包まれた。
「よしと、これでこの剣はお前の剣だ。お前以外にはその剣は使えないようになった」
「ふーん。ならレイ持ってみて?」
「いや、俺には効果はない」
「なんでよ!」
「元々は俺の剣だったからな」
「……それで、私以外が使おうとしたらどうなるのよ?」
「持てない」
「持てない?」
「そうだ。アシュ以外にはその剣が重く感じて持ち上げることすらできない」
登録変更は嘘であった。
しかし、アシュリーを剣の持ち主として登録したというのは本当である。
レイフォンの魔法だ。
「あの……なら、私がその剣を持ってみていいですか?」
声をかけてきたのはレイフォンとアシュリーのやりとりをずっと見ていたミカレ。
「レイ? 危険はないのよね」
「それは大丈夫だ」
「なら……お願いしてもいいですかミカレさん?」
「はい!」
なんとなく興味津々の様子のミカレ。
アシュリーはひとまず剣を床に置いた。
「では、持ってみてます」
ミカレは剣を握り持ち上げようとした。
だが
「くっ ぐっ う~んっ!」
びくともしない剣。
「……持ち上げるイメージが全然わきません」
「ほらな?」
「私達もいいですか?」
次は同じくふたりのやりとりを見ていたシンメとトリーが挑戦した。
結果は
「無理だわ」
「まるで持ち上がるはずのない地面を持ち上げようとしている感覚だわ……」
ミカレと同様に剣はびくともしなかったのだった。
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