Episode 76
ミカレの提案で今日はこの街にある家を借りて泊まることにしたレイフォンとアシュリーのふたり。
だが
「流石は『英雄の女神様』ですね」
「私もアシュリーさんの戦いを見たかったです」
話しているのは意識を取り戻した南の勇者パーティーメンバーのシンメとトリー。
「アシュリーさんこそ真の勇者だと私は思ったわ」
アシュリーとバルトスとの戦闘の話をしているのはミカレ。
「は、恥ずかしいですミカレさん……」
顔の赤いアシュリー。
「なんで俺が……」
もくもくとひとりで料理を作るレイフォン。
五人は同じ家、正確には屋敷に泊まることになったのであった。
「アシュ! 手伝え!」
「嫌よ!」
厨房から大きな声でアシュリーに声をかけたレイフォンに対してアシュリーは即答で拒否の返事をした。
「「なら、私達がお手伝いーー」」
「大丈夫ですよシンメさん、トリーさん。レイフォンは今日は何もしていないんですから」
「「けど……」」
アシュリーの言葉に申し訳なさそうな表情をシンクロさせ見せる双子。
「もちろんミカレさんもですよ?」
「あっ……はい」
立ち上がろうとしていたミカレにも手伝いはしなくてもいいと伝えたアシュリーだった。
ーー
「アシュめ俺が剣を貸したことやアドバイスを送ってやったことを忘れやがって……あいつのだけ激辛にしてやる……ふふふ」
悪い笑みを浮かべるレイフォン。
レイフォンが作っているのは唐辛子を使ったスープである。
唐辛子はこの屋敷の厨房にあったもの。
具材はレイフォンが異空間から取り出した野菜と肉。
「よし、こんな感じだな。で、アシュの分にはふふふふ」
アシュリーのスープに大量の粉上にした唐辛子を悪い笑みを浮かべながら入れるレイフォンであった。
ーー
テーブルには唐辛子スープとパン。
どれも同じに見える。
「レイ? 私のスープ少し多いわ。だからレイのと交換して?」
唐辛子を大量に入れたせいだろうか、確かに若干アシュリーのスープが多いように見える。
「えっ? 同じぐらいだろ?」
まずいと思ったレイフォン。
「同じじゃないわ。……はい、交換」
アシュリーの手により交換されたスープ。
そして
「では、いただきましょう」
アシュリーの合図で食事ははじまったのである。
スープを口に運ぶレイフォン以外の四人。
「このスープなかなか美味しいわねレイ」
「本当ですね。レイフォンさんはお料理得意なんですか?」
「この辛さ加減も」
「丁度いいわ」
レイフォンの作ったスープは四人に好評である。
「レイ? どうしたの? 食べないの?」
スープを見つめるレイフォンに声をかけてきたアシュリー。
食べたくないですとは言えないレイフォン。
目の前のスープを口にしてしまったら間違いなく大ダメージを受けるであろうことはわかっている。
「どうしたんですかレイフォンさん?」
ミカレまでもがレイフォンの様子がおかしいことに気づいて声をかけてきた。
「な、何でもないどすえ……」
「「どすえ?」」
ハモる双子。
レイフォンは思っていた。
(誰だ……こんな危ないスープを作ったバカは!)
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