Episode 75
「これで! とどめよ!」
「この俺が人間ごときに! 負けーーーー」
スパンっ
アシュリーとバルトスの戦いは終始、アシュリー優勢で進んだ。
そして、ついに左腕をも失ってしまったバルトスは最後、アシュリーが振りかざした剣により体を縦にふたつに斬られたたのである。
バルトスのふたつに別れた体は燃えていた。
「やったわ……」
ついにバルトスを倒したアシュリーは力が抜けるように地面に腰をおろした。
同時に炎の魔法剣エンファートの刀身から湧き出していた炎も消えていた。
「おつかれアシュ」
のんきな声で労いの言葉をかけたのは、いつのまにか後に立っていたレイフォン。
「……私が倒したのよね?」
「そうだな。圧倒してたじゃないか? ちょっと時間がかかったけどな」
「……私が倒した……私が本当に勝ったのよね!」
「ああ、お前の勝ちだアシュ」
アシュリーの耳にはレイフォンの皮肉った言葉は聞こえていなかった。
「アシュリーさん、お見事でした」
「ミカレさん!? 大丈夫なんですか?」
ぎこちなく立ち上がりながらアシュリーに声をかけたミカレ。
ミカレに気づいたアシュリーはすぐに立ち上がり、ミカレにかけ寄り体を支えた。
「はい……ありがとうございますアシュリーさん。痺れは少しありますけど大丈夫です。それより本当に凄かったですアシュリーさん」
「そうですか……とりあえずはミカレさんの体が無事そうで良かったです。私のは……その……無我夢中といいますか……この剣のおかげといいますか……」
「いえ……何であろうとアシュリーさんが倒したことにはかわりません。アシュリーさん本当にありがとうございました」
「気にしないでください。国は違いますけど私も勇者パーティーメンバーのひとりなんです。魔族を倒すのは当たり前のことですよ。正直、国なんてものは関係ありません」
「……そう……ですよね」
ミカレはアシュリーの言葉が嬉しかった。
自分と同じ考えであることに。
「話の途中で悪いんだけど、そろそろ日がくれるぞ?」
「レイは空気を読みなさい!」
「俺が空気を読んでも太陽は空気を読んでくれないんだよ」
「何その上手いこと言ったみたいな顔。ムカつくんだけど?」
「ふふふ……」
声をかけてきたレイフォンとそれに言葉を返したアシュリーとのやりとりを間近でみていたミカレは笑っていた。
「ミカレなら知ってるだろ?」
「ふふ……はい。この辺りは夜になると急激に気温が下がります。それと、今からじゃおそらく今日中に宿屋があるような街にはたどり着けないでしょう」
「なっ?」
「なっ? って何よ? どうにかしなさいよレイ?」
「なんでそうなるんだよ!」
「私は疲れてるの。レイはただ見てただけでしょ?」
「だからって……アシュ、お前は無茶苦茶だ」
「レイには言われたくないわ」
「ふふ……大丈夫ですよおふたりとも。今日はどこかの家を借りさせてもらいましょう」
再びはじまったレイフォンとアシュリーのやりとりの間にはいり、にこやかな表情で提案をしたミカレであった。
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