Episode 74
剣を構えたアシュリーは再び地面を蹴り、形体変化中のバルトスへと剣を振り上げ合間をつめる。
「体ががら空きよ! はぁああああ!」
「くっ、無粋な真似を人間がああああ!」
「貴方が言うなぁああああ!」
形体変化を中断したバルトス。
剣を大きく振り下げるアシュリー。
「2度も俺が攻撃を受けると思ってるのか! 人間が!」
バルトスの体は完全ではないが、半分は形体が変わっていた。
ひとまわり太くなった腕で、バルトスはアシュリーの剣を弾いた。
「ちっ!」
後に飛び下がるアシュリー。
(流石にそう簡単にはいかなったわね……けど……やれるわ)
切断はできなかったものの、傷と焼けた痕が残るバルトスの太い左腕を見てアシュリーは思った。
「この腕に傷をつけただと……」
バルトスは少し驚いていた。
「その剣はなんだ? 人間? ただ珍しい剣というわけではないようだな?」
「貴方に教える筋合いはないわ」
バルトスの質問に即答したアシュリー。
(私だって知らないわよ。軽いし、手に馴染むし……切れ味だって凄い……どうしてレイがこんな剣を持ってたのよ?)
刀身からいまだに炎が湧き出ている剣をチラリと見て思ったアシュリー。
(まっ、それはあとでレイにじっくり聞かせてもらうわ……それよりもまずは目の前のこいつね)
ーー
アシュリーに声をかけたあと、意識を失っていたミカレはうっすらと目を開けていた。
目にうつるのは炎の剣を握り構えるアシュリーと、少し形体が変わって右腕をなくしたバルトス。
そのひとりと1体が対当しあう光景だった。
(アシュリーさん!? どうして逃げてないの…………!?)
ミカレはまずはじめに、アシュリーが逃げていないことに驚いた。
たが、ミカレはそれよりも驚く光景をすぐに目にすることになった。
「どうしたの? 守るだけなの貴方は? 将軍なのでしょう貴方は?」
「ぐぬ……こんな中途半端な形体でなければ……俺だって……」
「言い訳? 私が形体を変える時間なんてあげるわけないでしょ? バカなの?」
「人間ごときが! 調子に……ぐっ」
剣を振りかざし攻撃の手を緩めないアシュリー。
バルトスの方はというと剣を防ぐので精一杯の様子。
自分は何もできなかったバルトス相手に、剣で圧倒するアシュリーの姿を見たミカレは凄いと純粋に思い驚いていた。
同時に自分の弱さを悔いた。
今のミカレは一時的にだろが、口で話すことも体を動かすこともできない。
(何が……勇者よ私は……首を絞められておわり? 何が本当に勇者よ……何が天空人の娘よ……シンメとトリーは? …………何もできないじゃない……私……)
シンメとトリーのことも気になったミカレだが、今は首も動かすことができず確認することができなかった。
今のミカレにできることは、目を開けてアシュリーとバルトスの戦いを眺めることだけだった。
(くそっ!)
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