Episode 73
「かかってこい人間!」
バルトスに剣を構えるアシュリーはバルトスの言葉と同時に地面を蹴った。
剣を振り上げバルトスとの合間をつめて気合いの声をあげるアシュリー。
「焼き斬ってあげるわ!」
アシュリーの握る『炎の魔法剣エンファート』の刀身からは先程よりも、炎が燃えあがるように湧き出していた。
余裕の笑みを浮かべて避ける様子のないバルトス。
そんなバルトスに剣を振り下ろすアシュリー。
「はああああああ!」
「珍しい剣だが、俺にはそんなのーー」
効かない。
バルトスはそう言って剣を手で受けとめるつもであった。
だが
スパンっ
「なっ!?」
驚愕の表情を見せるバルトス。
アシュリーが振り下ろした剣はバルトスの右腕を切断した。
切断され地面に落ちた右腕は、瞬く間に炎に焼かれ消滅した。
まさか、切断できるとは思っていなかったアシュリーも驚いていた。
(な、何……この切れ味は……)
バルトスの肩は震えていた。
屈辱である。
第6魔王軍将軍であり、上級魔族である自分が人間ごときに腕を切り落とされたことに……。
「遊びは終わりだ人間……」
バルトスの表情からは怒りが見てとれる。
そして
バルトスの体から黒い魔力が溢れだし、変化がはじまった。
(やっぱり、上級魔族だったのね……形体変化されたらまずいわね……)
アシュリーはひとまずバルトスから距離をとるためにうしろに下がった。
「どうする? 私……」
その時
「アシュ! 魔法詠唱と同じだ! バカ正直にそいつが変化するのを待たないで殺っちまえ!」
レイフォンの声が聞こえた。
「えっ?」
(魔法詠唱と同じ…………そうよね……待つ必要なんてないわよね)
「ありがとうレイ!」
レイフォンのアドバイスを聞き、再び剣を構えるアシュリーであった。
ーー
『レイフォン様……試練ではなかったのですか?』
尋ねたのは無表情なカシ。
「あっ……」
つい、アシュリーにアドバイスを送ってしまったレイフォン。
『レイフォン様はアシュリーに甘いな! はははは!』
ニヤニヤとした表情で言葉にしたあと楽しそうに笑うヤン。
炎竜姉妹のふたりは姿を消しているめ、レイフォンには表情はわからないが。
「……あれだよ! あれ! 初回特典サービスってやつだよ! だから……今のはあれなんだよ! だからあれで……もうあれはしねえ!」
『あれならしょうがないな! レイフォン様! はははは!』
レイフォンの「あれ」ばかりの返答(言い訳)に笑いながら納得をしてみせたヤン。
『あれですか? それでもうあれはしないと?』
「そうだ! もう、俺はアシュにはあれはしない」
『……そ、そうですか……』
(レイフォン様……別に我らに誤魔化さなくとも……動揺までみせて……)
レイフォンのまるわかりの誤魔化しと動揺にカシは心で思ったのであった。
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