Episode 7
テンペリス伯爵家の屋敷。
アシュリーと、その父親でテンペリス伯爵家当主のアスラ・テンペリス伯爵はふたりで話をしていた。
「アシュリー?」
「は、はい。わかっていますお父様。選ばれたからには人々の為に私は勇者様の力となり魔王を倒してみせます」
「そうか……すまない。私にはどうする事も出来なくて……娘を危険な場所に送る事しか出来ないなんて……本当にすまない」
アシュリーは神様のお導きによりウェスタリア王国の勇者パーティーメンバーに選ばれていた。
アシュリーは何かを考えていて少しぼーっとしていたのち、父 アスラ伯爵にはっきりと魔王を倒すと宣言した。
その父アスラ伯爵はただ娘を送り出す事しか出来ない自分自身を悔いて娘アシュリーに謝る事しか出来なかった。
どうして父娘のふたりはこんな会話をしているのかというと
それはーー
正式に王都からの招集命令が届いていたからだ。
これは王命であり。断る事はもちろん、逆らう事は誰にも出来ない。
「お父様、心配しないでください。魔王なんてすぐに倒して、この街に帰ってきますから。それに勇者様はこのウェスタリア王国だけではなく、東の大国イースラ王国と南の大国サウザトリス王国にも神様のお導きにより選ばれて勇者様は誕生しています。なので大丈夫ですよ」
「そう……だな」
アスラ伯爵は娘 アシュリーの心配するなとの心遣いの言葉に無理矢理に自分を納得させていた。
「それで、アシュリー? この事はレイフォンには?」
「まだ……言っていません……」
話を切り替え尋ねた父アスラ伯爵の言葉に少し悲しそうな表情を見せて答えたアシュリー。
先程、アシュリーがぼーっとして考えていたのはレイフォンの事だった。
「アシュリーとレイフォンは昔から姉弟のように仲が良かったからな」
「そうですね……」
懐かしそうに話す父アスラ伯爵に違うとは否定しないアシュリー。
「一度、レイフォンには私の養子にならないかと誘ってみたが断られたからな」
「ふふふっ、懐かしいですねお父様」
「ああ、そうだな」
思い出してか、笑顔を見せて笑うアシュリーと、それに優しく頷くアスラ伯爵だった。
ーーーー
レイフォン六歳、アシュリー七歳の頃。
テンペリス家の屋敷に遊びにきていたレイフォン。
アスラ伯爵はレイフォンに提案を持ちかけていた。
「レイフォン? 良かったら私の養子にならないか?」
「養子?」
六歳の子供が養子などわかるはずもない。
レイフォンは首を傾げていた。
「え~っとだな、私の息子にならないかって事だ。そしたらアシュリーはレイフォンの姉になり、私達とも家族になり一緒に暮らせる。今のひとりで暮らす生活からもーー」
「ならない」
レイフォンはわかりやすく説明するアスラ伯爵の話が終わる前に即答した。
レイフォンは今よりも幼い頃に両親を亡くし、それからはひとりで暮らし生活をしていた。
「何故だいレイフォン?」
養子の誘いを断ったレイフォンに対し少し驚いた表情を見せたアスラ伯爵はレイフォンに理由を尋ねた。
「だって、俺ひとりでも大丈夫だし。家族はいないけど、テスターの街の人達も伯爵様もみんな俺に優しくしてくれる。だから俺、全然平気なんだ。それに……」
子供らしい笑顔を浮かべながらハキハキと答えるレイフォン。
「それに?」
「それに、アシュが姉ちゃんとか、どんな罰ゲームだよ」
「罰、ゲーム?」
続けて話したレイフォンの予想外な言葉にアスラ伯爵はキョトンとした表情を見せた。
目が点としている。
そんなふたりの場所に現れたのは
「何が罰ゲームですって! レイ!」
鬼の形相をしたアシュリー。
「やばっ! そう言う事なんで俺は逃げます」
そう言ってアシュリーから逃げる為にアスラ伯爵の前から走り去っていったレイフォン。
「待て! 逃げるなレイ!」
それを追うアシュリー。
アシュリーの手には木剣が握られている。
「アシュは俺を殺す気か!」
「半殺し? で許してあげるからとまりなさいレイ!」
「半分死ぬのも嫌だ~!」
「待て! レイ!」
必死に逃げるレイフォンとそれを木剣を振り回しながら追いかけるアシュリー。
「ははははははっ……罰ゲームか」
そのふたりの様子を見て笑い、楽しそうに、優しそうな表情を見せて呟くアスラ伯爵。
「伯爵様! 娘をなんとかしてくれよ!」
アスラ伯爵に助けを求めるレイフォン。
だがしかしーー
「アシュリー! もう少しだ頑張れ!」
「はい! お父様!」
アスラ伯爵は娘 アシュリーの味方だった。
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