Episode 66
「よし! 南に向かおう」
勇者レオンとの決闘の翌日、レイフォンがいきなりそう言った。
「はっ? なんで南なのよレイ?」
「なんとなく?」
「はっ? なんとなくってバカなのレイは?」
アシュリーは通常通りだ。
「勇者には怒ってくれたのにアシュは普通に俺をバカと呼ぶんだな?」
「それはそれ、これはこれよ……それにレイのことをバカ呼ばわりして良いのは私だけなんだから……」
「アシュ……」
少しだけ照れた様子のアシュリーを見つめるレイフォン。
「いや、それなんか違うからな?」
「嬉しくないの?」
「バカ呼ばわりされることを嬉しいと感じるわけないだろう普通?」
「レイわがままよ?」
「それ、違う」
わざとらしく可愛く言うアシュリーと呆れた様なレイフォン。
さてはともかくレイフォンとアシュリーは南に向けて旅をすることを決めたのであった。
神様に関しては大丈夫だろう、と心配はしていない。
ーーーー
翌朝。
こっそりと王都の街から出発した2人。
「挨拶とかは良かったのか?」
「大丈夫よ。また会えるんだから」
「そっか……つか、悪いなアシュ」
「何をよ?」
「俺が馬車に乗れないから歩きの旅になってしまって」
レイフォンは馬車に乗るとすぐに酔ってしまう。
「そうね……なら、もし私が疲れたらレイがおんぶしてくれる?」
「まかしとけ」
「ふふふ」
胸を叩くレイフォンを見て微笑むアシュリー。
こうしてレイフォンとアシュリーのふたり旅がはじまったのである。
ーーーー
歌を口ずさむレイフォン。
「何その歌?」
「この歌か? 異世界の歌らしい」
「異世界の歌?」
首をかしげるアシュリー。
「神様に貰った力というかおまけなんだけどな。ここの世界とは違う世界の知識、つまり異世界知識が俺の頭の中にあるというか、浮かんでくるんだよ。ほら、ブラックベア討伐の時に俺が歌ってたうたや定食屋の時に俺がビーフシチューって言っただろ? それも異世界の言葉? 知識だったんだ」
「異世界知識ね……どおりでセンスのないレイがって思ってたけど、そういうことだったのね」
レイフォンの説明に納得をみせたアシュリー。
「センスがないとかひどいなアシュ」
「だって本当のことじゃない?」
「けど、それはアシュには言われたくないな」
(賢そうだからカシ、やんちゃそうだからヤンとか名付けたアシュにな……)
「何ですって?」
アシュリーの目は笑っていない。
「冗談です……ごめんなさい」
すぐに謝るレイフォン。
ふたりの関係は多少は進展があったものの、基本的には変わらない。
「まっいいわ……私、疲れたからおんぶしなさいレイ?」
「喜んでお姫様」
そういってアシュリーを背中におんぶするレイフォン。
アシュリーはゆっくりと後ろからレイフォンの首に手をまわす。
「重いとか言ったら殺すわよ?」
「言ってねーだろ?」
「思っても殺すわ」
「へいへい」
理不尽だと思うレイフォンに対してアシュリーはレイフォンの背中に抱きつき嬉しそうな表情をしていたのである。
「レイ?」
「ん?」
「好きよ……」
「俺もだ」
背中から聞こえきた少し恥ずかしそうに言ってきたアシュリーの言葉にレイフォンはすぐに返答した。
「俺もじゃ……わからない……」
「俺もアシュが好きだ」
「……うん」
頭をピッタリと密着させるアシュリー。
その表情は言うまでもない。
ふたりの関係は思ったよりも進展しているのかも知れない。
(これがツンデレってやつか……)
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