Episode 57
「ここはどこ? ボクは誰? 君は誰だい?」
傷はレイフォンが治した。
だが神様は本当に記憶をなくしていた。
一時的なものだとは思われるが……。
「お前らやり過ぎた」
「も、申し訳ございませんレイフォン様」
「ちょっとやり過ぎたかな? まさか反撃してこないとは思わなかったんですレイフォン様」
溜め息をつくレイフォン。
炎竜姉妹ふたりは正座をしている。
「アシュにも言ってるんだぞ?」
「だ、だって神様が私とレイのキ、キ、キーー」
「キスを見られただけだろ?」
「だ、だけって何よ!」
呆れるように言うレイフォンに対して頬を赤くして反論するアシュリー。
「それとやっぱりレイはカシとヤンとも関係してたんじゃない! 何よ"様"って?」
「俺が『インフェルリア』にいる頃に傷だらけの2人がドラゴンの姿で現れたんだ。それを俺が治療してしばらくふたりは『インフェルリア』に滞在してたんだよ」
「滞在って、ふたりは、精霊竜はこの世界には長くはいられないんじゃなかったの?」
「主よ、それは間違ってない。しかし『インフェルリア』は特別な場所だったのだ」
「あそこは空気中にも魔力が漂っていたから、オレ達精霊でも普通に暮らせるような環境だったんだぜ」
アシュリーの疑問にカシとヤンが答えた。
「そうなの? 『インフェルリア』か……いったいどんな国だったのかしら……」
「テスターの街みたいに良い人達ばかりの国だったさ」
「そう……今はどうなってるのかしら?」
「神様ならもしかして『インフェルリア』について何かを知ってるかもしれないな」
「神様! 今『インフェルリア』はどうなって……」
レイフォンの言葉を聞いたアシュリーは神様に尋ねようとした。
だが思い出したのである。
「君も誰だい? ボクはなんなんだい? 神様教えておくれ?」
神様が記憶を失っている事を。
「誰が……いったい神様をこんな……ひどい……」
両手を口に当てて神様可愛そう、そんな表情で話すアシュリー。
「いや……アシュ、お前だからな?」
「あら? そうだったわね」
完全にとぼけた表情のアシュリー。
「はぁー これが噂の『英雄の女神様』の正体かよ……」
溜め息をはいたあとにレイフォンの呟いた言葉にアシュリーは反応した。
「……やっぱり知っていたのねレイ?」
「アシュリーパンにアシュリー定食、アシュリー愛用の手鏡などなどアシュリー様フィーバーじゃないか」
「な、何よそれ! そこまでは知らないわ私!」
「まっ良いじゃんね? それでこの王都の街に活気が出てきているのならな?」
「そうだけど……なんだか恥ずかしいわ」
「俺なら街を逃げ出すけどな」
「他人事だと思って……そうだわ! レイ? 私も貴方の旅に同行させなさいよ?」
「はっ? 何を言ってるんだアシュ? お前は勇者パーティーメンバーだろ?」
「大丈夫よレイ……私には策があるわ」
いきなりのアシュリーの提案にレイフォンは「こいつバカか?」と思った。
しかし、アシュリーは悪い笑みを浮かべて大丈夫と答えたのであった。
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