Episode 53
アシュリー十二歳の頃。
「レイ、冒険者になるわよ?」
「はっ? 何を言ってんのお前は?」
「お前?」
「アシュリー様は……」
アシュリーと十一歳のレイフォンのふたりはあれからいつも一緒に行動を共にしていた。
テスターの街の人々はそんなふたりを仲が良い姉弟のように思い、暖かく見守っていた。
「で? どうして急に冒険者なんだ? それにアスラ伯爵様がそんなのーー」
「許してくれたわ。この街周辺限定だけどね。最初は渋っていたけど、お父様は私には甘いのよ。それに私は魔法が使えるのよ?」
魔法を使える人間はこの世界では貴重な部類に入る。
「そうだったな……俺はその練習台だったからな……何度、天使達が俺を迎えに来た事だか……」
遠い目をするレイフォン。
「良かったわね。天使達に会えて」
「よくねーよ! で? どうして冒険者なんだよアシュ?」
「レイの収入をあげる為でしょ?」
「俺の?」
別にそんなには困ってはないがと思うレイフォン。
「レイの家のお茶はいつも薄いのよ。それに茶菓子も出ないし……困るでしょう私が?」
「結局は自分の為じゃねーかよ!」
「あら?」
可愛らしく首を傾げたアシュリー。
「とにかく、私が協力してあげるんだからレイの貧乏生活も解消されるのよ?」
「お茶が薄いとか茶菓子が出ないとか貧乏だとか……金持ちのアシュリーにはわからないだろうけど俺には今の生活で満足できてんだよ」
「私はお金持ちだからわからないわよ。それに私が満足出来ないんだからやるのよ」
本当に自分勝手な幼馴染みだと思うレイフォンであった。
ーーーー
あれから半年後。
冒険者としてギルドに登録したふたりは週に一度、テスターの街周辺の魔物や魔獣の討伐、退治依頼を受けていた。
そしてーー
ふたりはピンチを迎えていた。
「何が十体程度のゴブリンよ……」
「間違いなく百体は越えてるな」
ゴブリン退治の依頼を受けていたふたりは百体を越えるゴブリン達に囲まれていた。
「アシュ魔力は?」
「その……もう残ってないかも」
「調子に乗って魔法を放つからだろ」
「だって十体程度って聞いていたから……」
「はぁ~ 仕方ない……アシュ悪いけど少し眠っていてくれ」
溜め息をはいたあと、レイフォンの言った言葉を聞いた瞬間にアシュリーは急激な眠気がやってきて目を閉じ地面に倒れてしまった。
だが
アシュリーは眠っていなかった。
そしてうっすらと目を開けた。
体は力が入らずに動かせない。
(何が起こったの……)
「さてと……アシュが眠ってるうちにささっと終わらせるか……」
レイフォンはアシュリーが完全に眠っていると思いこんでいた。
(レイ……?)
「こいつらを……全てを飲み込め!」
すると上空に黒い空間が現れてゴブリン達を次々と吸い込むように飲み込んでいった。
そして……全てのゴブリン達が居なくなった。
(今のは魔法、なの? レイが? 魔法?)
アシュリーはまるで夢を見ているように思えていた。
するとまた急激な眠気がやってきたアシュリーは本当に眠ってしまった。
ーー
「起きろアシュ!」
「えっ?」
「急に魔力切れでアシュが眠るから困ったじゃないか」
アシュリーが目覚めた場所はレイフォンの家のベッド。
「ゴブリンは? あの百体を越えるゴブリン達はどうなったの?」
「何を言っているんだ? アシュは十体程度のゴブリンを倒したあとに魔力切れで倒れて眠ってしまったんだろ? だから俺がしょうがなくここまで運んだんだよ」
嘘だ。
アシュリーは確かに百体を越えるゴブリン達と魔法を使ったレイフォンを見た……だが
「……そう」
アシュリーは反論せずに大人しく頷いた。
それからアシュリーがレイフォンの魔法を見る事はなかったのである。
アシュリーはレイフォンが何かを隠し、秘密にしていると感じながらもそれに触れることはしなかった。
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