Episode 52
アシュリー五歳の頃。
幼いアシュリーはいつものようにテスターの街を散歩していた。
そして、森の近くの花が咲く場所に辿り着いたアシュリー。
「うわーきれい!」
アシュリーは綺麗な花を見て嬉しそうにしていた。
すると
「あんなところにお家なんてあったかしら?」
少し先に見える一件の家。
時々、この場所に散歩で訪れていたが今まではなかっな家。
興味が湧いたアシュリーはその家に近づいた。
家をキョロキョロと見ていると
「何を俺の家を覗いているんだよ?」
と自分より小さい男の子に声をかけられた。
「あなた、ここの子なの?」
「そうだけど覗き女」
これがアシュリーとレイフォンのはじめての出会いであった。
アシュリーのレイフォンへの最初の印象は生意気な子供だった。
ーー
自分の屋敷に帰ったアシュリーは父親アスラ伯爵に森の近くにあった家のこととレイフォンの事を話した。
だが
「ああ、あそこの家の夫婦は先日、魔物に襲われてね……そうか……確か……息子が居たのか……」
アスラ伯爵は知っていた。
そんなはずはない、あそこに家なんてなかったと思うアシュリーだが、その事に関しては徐々に気にならなくなっていった。
ーー
それから毎日のようにアシュリーはレイフォンの住む家に訪れるようになっていた。
「また来たな、伯爵令嬢の覗き女」
「わたしのことはちゃんと名前で呼びなさいよね!」
「お前の名前知らないし」
「アシュリーよ……」
「ならアシュだな。こっちの方が呼びやすいし」
「アシュ?」
はじめて呼ばれるあだ名のような呼ばれ方。
「駄目か? 俺はレイフォンだ」
「べ、べつにだめじゃないわ! なら私はレイってよぶわ!」
照れ隠しをする為か大声でそういったアシュリー。
「わかった」
アシュリーはこのテスターの街の領主の娘で自分のことを呼び捨て、ましてやあだ名のように呼ぶ人物は誰もいなかった。
それなのにレイフォンはそれを知っている様なのに臆することなく普通に、いや生意気に話してきて「アシュ」と呼んできた。
それがアシュリーには新鮮で嬉しかった。
「どうしたアシュ?」
「レイ、あなたなまいきなのよ?」
「はっ? おまえはいじめっ子か何か?」
「レイはなんさいなのよ?」
「俺は四歳だけど?」
「なら私の方がお姉さんね。フフーン♪」
勝ち誇った様な態度のアシュリー。
「はっ?」
レイフォンは呆れていた。
「だから私のことはアシュお姉さまってよびーー」
「嫌に決まってるだろ?」
アシュリーが言い終わる前に即答するレイフォン。
「なんでよ!」
「だってアシュみたいな偉そうな姉ちゃんとかまじ勘弁、ありえないし」
素直に答えるレイフォンに対してアシュリーは俯き肩を震わせていた。
「なんですって!」
アシュリーの手には木剣が握られていて今にも襲いかかってきそうな様子だった。
「ちょっ? どこから出したんだよそんなもん! つかそれをどうする気だよお前は!」
「お前? これはきょういくよ!」
躊躇することなく木剣を振りかざすアシュリー。
「こ、この暴力女ああ!」
間一髪避けて逃げるレイフォン。
「まちなさい! いたいのはさいしょだけなんだから!」
「何が痛いのは最初だけだよ! それってこの世から俺をさよならさせるって事だろうが!」
「ちがうわよ! はんごろしよ!」
木剣を振り回し追いかけるアシュリーと必死に逃げるレイフォンであった。
アシュリーの表情は楽しそうに笑っていた。
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