Episode 4
「なかなか見つからないわね」
「そうだな」
ブラックベアを探すレイフォンとアシュリーのふたり。
森に入り約二時間が経過していた。
「よし! 今日は諦めようアシュ」
レイフォンはお腹が空いて堪らなかった。
「何言ってんのよ? 誰の為に依頼を受けてると思ってるのよ?」
「アシュには感謝してるけど、今月はもう大丈夫だって」
依頼を受ける時はいつも一緒のふたり。
レイフォンがどんなに役に立たなかろうが依頼達成の報酬は必ず平等に分けていた。
「それじゃレイと一緒に居られないじゃない……」
レイフォンには聞こえない声で小さく呟くアシュリー。
「何か言ったか?」
「何でもないわよ!」
少しだけ顔を赤くさせてレイフォンに言い返した直後ーー
「グワァー!!」
草むらから突然とブラックベアが姿を現わした。
ブラックベア
その名の通り見た目は黒い熊だが体長三メートルを超える人間を襲う狂暴な魔獸。
「やっと、お出ましになったわね! 餌! じゃなくてレイ! 作戦通りにいくわよ!」
「今、餌って言ったよな?」
「いいから、早くしなさいよね!」
「はいはい……ほら、熊さんこっちだ!」
餌……ではなくレイフォンは面倒そうに返事をしたあとに、ブラックベアを引き付ける為に大きな声を出した。
「グワァ? グワァー!!」
レイフォンの声に反応したブラックベアはレイフォンを襲いにかかる。
「グワァー!!」
「こいつ、何でこんなデカイ図体しててこんなに足が早いんだよ!」
襲ってくるブラックベアから愚痴をこぼしながらも必死に逃げまわるレイフォン。
「アシュ! まだかよ!」
「思ったより早く動くから狙いが定まらないのよ! レイ! 一旦とまって!」
レイフォンはアシュリーに助けを求めるが真顔で無茶な要求をしてくるアシュリー。
「食われるわ!」
流石に言い返したレイフォン。
「仕方ないわね。何とかするわーー火の精霊よ、汝の力を我に貸し与えたまえして、我の敵を焼きつくさん事を求める、火球!」
やれやれといった表情で魔法詠唱を唱えはじめたアシュリー。
そして、アシュリー放った魔法がブラックベアをとらえる。
「グワァァアアア!」
「熱っちぃぃい!」
ブラックベアと共にお尻をおさえながら絶叫するレイフォン。
「あっ、ごめん」
首を傾げて軽く謝るアシュリー。
アシュリーの魔法( 火球)はレイフォンにもかすって燃え移っていた。
なんとかお尻に燃え移った火を消火したレイフォン。
「俺まで焼き殺す気かお前は!」
「謝ったでしょ? それに誰がお前ですって?」
「……アシュリー様すいませんでした」
たまらず文句を言ってやる。
いや、言うと決めたレイフォンだったが……
アシュリーの笑っていない目を見て三秒で決意は崩れたのだった。
ーーーー
「ああ~、これじゃ毛皮は売れないわね」
ふたりは倒したブラックベアの状態を確認していた。
ブラックベアの毛皮はそこそこ良い値で売れる。
「まっ、仕方ないだろ?」
「そうね。依頼は達成したんだしね」
依頼書をレイフォンに見せるアシュリー。
仕組みはわからないがギルドの依頼を受けて達成すると依頼書には依頼達成の文字が浮かびあがるようになっている。
「腹も減ったし、さっさとギルドに報告して昼飯にしようぜ」
「そうね。ねえ、レイ?」
確認も終わり、早く帰ろうと言うレイフォンにアシュリーは頷いたあと、少しだけいつもとは違う声のトーンで話しかけた。
「何だアシュ?」
「もしね、もしも私がこの街から居なくなったらレイは寂しい?」
「何だよ急に? アシュが居なくなったら誰が俺の面倒を見るんだよ?」
アシュリーの言葉にレイフォンは真顔で返した。
「それって?」
少し意外だった返しにアシュリーは続けて尋ねた。
「俺はアシュがこの街から居なくなるなんて想像できねぇ。アシュはいつも俺の側にいて当たり前の存在だからな」
「そう……」
恥ずかし気もなく話すレイフォンの言葉にアシュリーは嬉しそうな悲しそうな、そんな表情を見せていた。
「で、いったい今のは話は何だったんだ?」
「ううん。何でもないわ。行きましょうレイ!」
本当になんだったんだ? という表情のレイフォンにニコっと笑顔で答えたアシュリーはギルドの方へと駆け出したのであった。
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