Episode 37
レオンは迷っていた。
ベノムを倒す事を優先するかマットを助けて一旦退くか。
「ほら、勇者"様"どうしたんですか? そんなガラクタはほっといて私と楽しみましょうよ?」
「くっ……」
余裕の表情で笑みを浮かべるベノム。
レオンは唇を噛み締める
すぐにでもベノムを殺してやりたい
だがその感情をなんとか抑えているレオン。
「人間は腕が無くなっただけで駄目になるなんて、本当に下等な生き物? いや、虫ですね。何故、魔王様はこんな虫くずどもを襲い、殺す事を禁じていたのでしょうか?」
腕を組み、考える仕草を見せるベノム。
その時ーー
「レオン! マット!」
「ミミー! 早くこっちに来てくれ!」
少し離れた場所からミミーがレオン達に声をかけた。
マットを腕で抱えるレオンはミミーに急いでこちらに来るように叫ぶ。
「マット!? ど、どうしたの!?」
急いでレオン達の元までやって来たミミー。
だがマットの状態にすぐさま気づいたミミーは目を見開き口を両手で押さえた。
「治療を頼めるかい?」
「わ、わかったわ」
ミミーは動揺しながらもマットにすぐさま治療魔法をかけはじめた。
腕が戻ることはないが切断面がみりみる塞がっていく。
「……ごめん。今の私にはこれが限界だわ……一命はとりとめたはずだけど……」
「ありがとうミミー……今はこれで充分だ」
ここにたどり着くまでに何体かの魔人と交戦したミミーは魔力をだいぶ消費していた。
「終わりましたか? 無駄な治療は?」
ミミーが到着してからマットを治療するまでを無言で観察していたベノム。
「終ったよ。だから今から僕が貴様を倒す……いや、殺す!」
マットをミミーに任せ立ち上がるレオン。
「ベノムとは言ってくれないのですね? 残念です……では、はじめましょう? 殺しあいーー」
「はああああ!」
ベノムが言い終わる前にレオンは目の前まで迫り剣を振り上げていた。
「さっきからうるさいんだよ貴様は!」
スパッ
「あら? 私の右腕が斬られちゃいましたね?」
右腕をレオンに切断されたベノム。
しかしその切断された部分からは血などは一滴も流れていない。
それに、ベノムは余裕の表情を浮かべている。
レオンはその様子を見て一旦後ろに下がる。
「私の右腕無事でしたか?」
ベノムは切断された右腕にを拾い持ち、切断部分に引っ付けた。
すると、みるみるうちに右腕は繋がっていった。
「いきなりとか酷いじゃないですか?」
「なっ!?」
そんなベノムを見てレオンは驚きの表情を見せた。
「嘘!?」
その様子を見ていたミミーも驚いている。
「まさか、この程度の事で驚かれるとは思いませんでしたよ……そろそろ飽きてきたので全力でかかってきてもらえませんか勇者"様"」
「わかった……ミミーはマットを連れて早く逃げーー」
「逃がすわけないだろ?」
「さっきのは効いたな」
「あれはまじびっくりしたぜ」
レオンがミミーに声をかけようとした時、レオンがはじめに切断し殺したはずの魔族達がまるではじめから切断などされていなかったかのように、傷跡も残っていない状態で立ち上がってきた。
「!?」
「えっ!?」
そして
魔族達に完全に囲まれた三人。
「安心してください。他の者には手を出させません……勇者、貴方は私が殺してさしあげますから」
剣を強く握り構えるレオンの額からは汗が流れていたのだった。
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