Episode 3
アシュリー・テンペリス
この『テスターの街』の領主の娘でテンペリス伯爵令嬢でもある少女。
レイフォンとは幼馴染み。
「なあ? アシュ? 俺、朝飯食べてないから腹が減ったんだけど」
ブラックベアの潜む森に向かう途中の道でお腹をおさえ空腹を訴えるレイフォン。
アシュとは幼馴染みのレイフォンがアシュリーを呼ぶ時の愛称。
「我慢しなさいレイ。お昼には終わるわよ」
「俺、餓死するかも知れない」
お腹を押さえたまま、大袈裟に地面に膝を着くリアクションを見せるレイフォン。
「するわけないでしょ! それにレイが寝坊したから悪いんでしょ? 自業自得じゃない」
「それは……」
(つか、俺は寝坊とは言ってないよな?)
アシュリーの正論に何も言葉を返せない。
だが、七割は神様のせいだと思っているレイフォン。
「とにかく、今日の作戦はこうよ」
アシュリーは話を切り替え今日の作戦を話しはじめた。
作戦は至ってシンプル。
レイフォンがブラックベアの囮になり逃げ回る。
その隙を見てアシュリーが魔法でブラックベアを仕留めると言う作戦。
「わかったレイ?」
「アシュ? 俺っていつも囮じゃね? この前なんか俺、本当に食われて死ぬかと思ったんだけど?」
「レイはそのぐらいしか出来ないんだから仕方ないでしょ? 何も出来ないんだから。それに大丈夫よ。レイは私が守るわ。だから私を信じなさい」
「アシュ」
男らしいアシュリーさん。
「だけど、食べられたら食べられたで仕方ないと思いなさいレイ」
ニコっと微笑むアシュリーさん。
「アシュリーさん? 仕方ないで俺の人生を終わらせないでほしいんだけど?」
レイフォンの切実なる思い。
「まっ大丈夫よ。お姉さんに任せなさい!」
豊かな胸を張るアシュリー。
レイフォンは十四歳。
アシュリーは十五歳。
「こんな姉は嫌だ!」
全力で拒否を示すレイフォン。
「なんですって! レイのくせに!」
「ずびまぜんでじた」
アシュリーに左右の頬を引っ張られながら謝るレイフォン。
引っ張られた手を離されたあと、レイフォンは「この暴力女」と小さく呟きながら赤くなった左右の頬をさすったのだった。
傍からみればふたりはじゃれあう姉弟に見えなくもない。
ーーーー
ブラックベアの潜む森に到着したふたり。
レイフォンはのんきに熊に関する歌を口ずさんでいた。
「何よ、その歌?」
アシュリーの聞いた事のない歌詞とメロディー。
「俺もよくわからないけど頭に浮かんできた」
「なかなか悪くないメロディーね」
「俺ってもしかして、音楽家の才能が!?」
「調子に乗る、な!」
「いだっ!」
アシュリーに頭を叩かれたレイフォン。
「何すんだよ! この暴力ーー」
「この暴力? 何かしら? 言ってごらんなさい?」
文句を言ってやろうと思ったレイフォンだったがーーアシュリーの目が恐ろしく続きが言えない。
「暴力はいけないと思います。アシュリー様」
結論。
丁寧な言葉で答えたレイフォン。
「ふざけてないで、さっさとブラックベアを探すわよレイ」
「はいはい」
姉弟というより自分はアシュリーには逆らえない子分じゃないだろうか? と、レイフォンは思ったが口には出さなかった。
いや、出せなかったのであった。
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