Episode 29
王都の街のとある酒場。
「なあ、マット?」
「なんだ勇者様?」
「その呼び方はやめてくれないか……」
「で? またアシュリーの事か?」
「……そうなんだ。僕達が集まり合流してから三ヶ月が経過したのに……アシュリーは僕の事をいまだに名前では呼んでくれないし……丁寧な言葉というか、いまだに敬語なんだ」
「知ってる」
「それで僕はどうしたら良いんだと思うマット?」
また、レオンのアシュリー関係の愚痴かと溜め息を漏らす勇者パーティメンバーのひとりの青年
マット・シュラム
十九歳で勇者パーティメンバーでは最年長のマットは度々こうして、ひとつ年下の勇者レオンの恋愛相談という名の愚痴を聞かされていた。
「とりあえずレオンはアシュリーがトイレに行こうとする度に「どこに行くんだい?」と声をかけるのはやめろ。空気を読め。毎回アシュリーが恥ずかしそうにしてるだろ」
「だって、気になるじゃないか!」
「アシュリーのトイレが気になるとかレオンは変態なのか?」
「ち、違う!」
マットの言葉に恥ずかしそうに顔を赤くし、大きな声を出したレオン。
今こいつ、少しいかがわしい想像をしただろ、と思ったマット。
「まっ、アシュリーは俺達メンバーの中では最年少だけどしっかりして真面目な少女だ。それでレオンは勇者。俺達に話しかけるように話さないのも真面目だからだろう」
マットから見たアシュリーはたぶんレオンから距離をおいていると感じていたが、それは言わない。
「そう……なのか……。しかし、時々アシュリーがマットに親しそうに話している時に、僕はマットを呪いそうになるんだ……どうしたらいいと思う?」
真面目な顔で聞いてくるレオン。
「……とりあえず俺を呪わないでくれ。まっ、なんだ……まだ三ヶ月だ。これからだろ……たぶん」
「そうだ! マットの言う通りだ! 僕達は出会ってまだ三ヶ月しか経過していないじゃないか! 僕は焦りすぎていたんだ! そうか……そうか……よし! 決めた! 僕は魔王を討伐したあとにアシュリーにプロポーズをする。今決めた!」
「……」
熱く話し言葉にして決意したレオン。
マットはそれを呆れた表情で見ていた。
そして思った……
その言葉三回目だと。
その時ーー
「あっ! レオンとマットだ!」
酒場に入ってきたミミーとアシュリーのふたり。
ミミーがレオンとマットを見つけて指をさした。
「こんばんはマット、勇者様」
「よっ! ふたりとも。今日はここで晩飯か?」
「そうだよ。私達はお酒は飲まないけどね」
ウェスタリア王国の飲酒が認めている年齢は成人と認められる年齢と同じく十六歳である。
「ならよかったら俺達と同じ席でどうだ?」
「どうするアシュりん?」
「なら、お言葉に甘えましょうミミー」
アシュリーが同じテーブルの席に座ると聞いたレオンの表情は凄く嬉しそうだった。
四人が同じ席に座り食事をするのは王都に招集されて集まった日以来だったのだ。
お読み頂きありがとうございました。




