Episode 27
ウェスタリア王国王都の街。
「はっ! やぁーっ! えいっ!」
勇者パーティメンバーのひとり、アシュリー・テンペリスは朝から城の訓練所で汗を流していた。
「"アシュ"おはよう」
「おはようございます勇者様。すみませんがその呼び方で呼ぶのはやめて頂けますか?」
「ごめんごめん。アシュリーはこの呼ばれ方は嫌いだったね」
「いえ……はい……」
正確にはアシュリーは"アシュ"との呼ばれ方は幼馴染みのレイフォン以外の男性には呼ばれたくなかったのだ。
「僕達が王都に集められてもう三ヶ月だね。だけど、北にはまだ旅立てそうにはないね」
「そうですね……」
アシュリーの顔は冴えない。
勇者パーティーメンバーが王都に集められてから三ヶ月が経過したが、一向に魔族の国のある北の地域に旅立つ目処はたっていなかった。
それは、人間達が考えていたよりも早くに魔族達が動き出し、このウェスタリア王国に魔族が現れ被害をもたらしていたからである。
「勇者様……」
「どうしたんだいアシュリー?」
「私達は本当に"あの子達"を殺すことしかできなかったのでしょうか?」
アシュリーのいう"あの子達"とはウェスタリア王国の各地の街や村に現れ人間を襲っていた魔人化した子供達のことである。
「魔族に詳しい先生も言っていたけど、魔人化した人間はもう元には戻ることはなかったんだよ。僕だって本当はどうにかしてあげたかった……だけど、そんなことは神様以外は不可能なことだったんだ。だからアシュリーが気にやむことはないよ」
アシュリーに対して優しく微笑み答える勇者。
勇者パーティメンバー達はこの三ヶ月ただ王都に居たわけではない。
魔族について学んだり、戦闘訓練重ねたり、魔族の目撃情報などがあればすぐに勇者パーティメンバー達はその場所へと向かった。
そして、アシュリーが目にしたものは魔人化して人間を襲い、殺す子供の姿。
誰ひとりとして生きていない魔族に襲われ、滅ぼされた街。
街の至るところには無惨な姿で転がる遺体の数々。
まさに地獄絵図といえる悲惨な状況だった。
「魔王を討伐したら全てが終わる……なんて簡単な状況ではないのですね」
「……そうだね。これはまだ……はじまりにすぎないのかもしれない。これから魔族によってもっと多くの人々が犠牲になるかもしれない。それを少しでも防ぎ助けるのが僕達の使命なんだ」
「……はい」
魔族達が動き出し、人間達は苦戦していた。
警備隊や兵士、冒険者では魔人や魔族にはまったく歯が立たなかった。
勇者パーティメンバー達ですら魔人化した子供を倒すのがやっとで、滅ぼされた街で見かけた魔族には傷をつけることさえできなかったのだ。
私達にはまだ力が足りない。
そう、アシュリーは感じていたのであった。
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