Episode 194
ナイフをレイフォンに突きつける男性。
黙ったままのレイフォンに男性は
「どうした? ビビって声も出せねぇってか」
余裕の笑みを浮かべながらそう言った。
そんな男性に
「……なわけないだろ?」
と、小さく言葉を返して、レイフォンは突きつけられたナイフの刃先を指で掴んだ。
「何してんだガキが!」
男性はレイフォンの行動にイラっとして手に力を入れ、ナイフを動かそうとした。
だが
「なっ!?」
微動だにしないナイフ。
驚いたような表情を男性は見せる。
「こんなちっぽけなナイフを向けられるくらい、俺の知ってるやつの脅しに比べたら――」
そんな男性にレイフォンは淡々とした口調で言葉を返しながら
「――可愛いもんなん、だよっ、と」
ポキっ
そう言ってナイフをへし折った。
「えっ……!? えぇえええ!?」
ナイフを折られたことに、男性は目を丸くし驚愕の表情を見せる。
素手でナイフをへし折ったのだ。
驚くのは仕方がないことである。
しかし、男性の大袈裟過ぎるとも思える驚き方に、レイフォンは違和感を感じていた。
男性に続いて仲間のふたりも
「ミスリル製のナイフが……折られた……?」
「嘘だろ……」
と、目を丸くして驚く。
ミスリル?
男性が大袈裟までに驚いた理由がなんなくわかってしまったレイフォン。
(え……? ミスリル製? 何それ? え? あれ? 普通のナイフじゃなかったの? つか……何でこんなチンピラがそんなもんを持ってんだよ!)
「……」
ミスリル製のものを素手でどうにかしてしまうような人間などこの世には……多分いない。
ちょっと驚かせてそのすきにアシュリーを連れて、お得意の"逃げる"とのレイフォンの作戦は崩れる。
「た、助けてくれ!」
「す、すまない! 俺達が悪かった!」
「だから命まではどうかお助けを!」
突然、レイフォンに対し命乞いを始める3人。
ミスリル製のナイフを素手で減り折る人間=化物=殺される……と、でも思ったのだろう。
苦笑気味に困らせた表情を浮かべるレイフォン。
「え……いや、俺は命なんて……」
奪うつもりはない、と3人に言葉をかけるつもりだったのだが――
「――って、おい! ちょっと待て……って、行っちまった……」
3人は驚くスピードで店から逃げ出してしまっていた。
苦笑いを浮かべひとり突っ立つレイフォンは注目を浴びる。
そして、聞こえてくる客達のひそひそ声。
「あの銀髪の少年は何者だ……?」
「ミスリル製のナイフとか言ってたわよね?」
「そのナイフを素手で折ったって……」
「……」
この状況でどうすればいいのかわからないレイフォンは、苦笑いのまま助けを求め、一番近くに居る人物、アシュリーに視線を向けた。
そんな、助けを求めてくるような目のレイフォンを見てアシュリーは
「……流石……レイね……ぷっ」
と、小さく言葉をかけて、最後におかしそうに小さく笑ったのであった。
「流石じゃねぇよ……」
お読み頂きありがとうございました。
書籍1巻発売中です。