Episode 193
男性のご指名を受け、客達からの注目も浴びてしまうレイフォン。
レイフォンは心の中で大きな溜息をついた。
「聞いてんのか! さっさとこっちに来いって言ってんだろうが!」
男性はレイフォンに向かって怒号をあげた。
(もう本当……何この状況? 俺がなんとかしないといけないわけ?)
疑問を感じながらも、レイフォンは男性の指示に従い、アシュリーとガラの悪そうな男性3人の居るテーブル席へと、ゆっくりと足を進めた。
足を進める際、アシュリーと目が合う。
アシュリーはレイフォンと目が合うと、ニコリとした笑顔の表情を一瞬だけ見せた。
(こいつ……)
男性達の元へと到着したレイフォン。
「お前がこの嬢ちゃんの連れか?」
「そうだけど……」
「悪いがこの嬢ちゃんは、今から俺達と楽しい遊びをすることになっている。だから、お前は大人しく家にでも帰れ。今なら何もしないで見逃してやる。さもなければどうなるかわかってるよな?」
ナイフなどの武器をちらつかせ、そんなことを言ってくる男性達。
おとなし目のレイフォンを見て、男性達はビビっているのだろうと勘違いしていた。
(それは良い提案だな。……けど、仮に俺がこいつらに見逃されたとしても、見逃してくれないやつがいるんだよな……はぁ……)
レイフォンがどうにかするべき相手はぶっちゃけ男性達ではない。
肩を震わせ怯えた様子を見せる少女、アシュリーにあった。
(……怯えてる? 冗談だろ? ただ笑いを堪えて震えているだけの間違いだろ……)
とにかく、一刻も早くこの茶番を終わらせたいレイフォン。
「悪いけど、その提案は却下だ。大人しく家に帰るのはあんた達の方だ」
「は? 何を言ってんだクソガキが?」
「女の前だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ? あぁああ!」
「自分の立場がわかってないみたいだな」
怒ったひとりの男性がレイフォンに向けてナイフを突きつける。
「俺は今まで何人もの人間を殺してきたんだ。これは脅しなんかじゃねぇぞ?」
「……」
黙り込むレイフォン。
そんな時
「レイ!」
その様子を見たアシュリーが心配そうな表情で声をあげた。
周囲から見たら緊迫した状況である。
だが実際は違った。
アシュリーの心配そうな表情と声は演技。
実際は心配してレイフォンの名前を叫んだのではない。
合図である。
さぁ今よ、やっておしまいなさい。
こんなとこであろう。
レイフォンにはわかっていた。
というか、この程度の状況でアシュリーが心配すはずもない。
そもそも、この状況の原因はアシュリーにあると言っても過言ではないからである。
本来ならこんな面倒な状況なんてさっさと終わらせられたのに……。
(……つか、そんな演技というか、こんなやり方をどこで覚えて来やがったんだよこいつ……。まっ、あいつしかいないだろうけどな……)
レイフォンの頭の中に浮かび上がったのはミリベアス。
そして、今日何度目かの溜息をついたあと、レイフォンはいよいよ行動に出る。
(……さてと、こう言う面倒な状況の時には"あれ"しかないだろう)
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