Episode 192
少しオシャレな飲食店。
レイフォンがトイレから席のある店内に戻ると、アシュリーがガラの悪そうな男性3人組に絡まれている状況だった。
普通ならデート相手の女の子が絡まれている状況とあれば焦ったりもするものである。
しかし、絡まれているのは普通の女の子ではない。
ガラの悪そうな男性3人程度、瞬殺可能な女の子『英雄の女神様』ことアシュリー様である。
そんなアシュリー様はレイフォンと目が合うとニコリと微笑み、この状況をどうにかしろ的な言葉をレイフォンに伝えてきた。
口を開いて発してきたわけではなく、いつ覚えたのか、魔法を使いレイフォンの頭の中に直接。
レイフォンからすれば、その言葉はただの無茶ぶりでしかなかった。
(なんとかしろって言われてもな……)
周囲には他の客もいる。
確かになんとかはしなくてはいけない状況ではあるが、なんとかする為に下手に行動してしまえば目立ってしまう。
基本的には、人前では目立つ行動は取りたくないレイフォン。
レイフォンはどうするか悩んだ。
(いっそのこと、あの3人をどっかに飛ばすか)
こっそり魔法を使い、男性3人だけを店の外に転移させる方法をレイフォンは考えた。
(まわりの客達は驚くかもしれないけど、俺がやったとは思わないだろ。よし、この方法に決めた)
レイフォンは、この自分が目立たずなんとかする方法を実行に移そうとした。
だが
「あっ! レイ!」
こっそり実行しようとした、まさにそのタイミングに、アシュリーがわざとらしくレイフォンの名前を呼んだのだった。
「あん? レイ? 誰だそいつ?」
「連れのやつじゃねぇか?」
「どこにいやがるんだ?」
アシュリーが名前を呼んだことで、まわりをキョロキョロと見渡しはじめた男性3人。
「おいこらっ! 出てこいや!」
もちろん、指名されているのはレイフォンである。
(……今あいつ、わざと俺の名前を呼びやがったよな?)
正解。
アシュリーはわざとレイフォンの名前を呼んだのである。
男性3人にレイフォンの存在を気付かさせる為に。
(魔法を使ってあっさり終わらせるなんて今日はさせないわよ)
レイフォンが実行しそうな行動を予測し、先手をうったアシュリー。
(たまには男らしく、ビシッとなんとかして見せなさいよね)
アシュリーが求めていたのは、こそこそした対処の行動ではなく、堂々と男らしく対処して見せるレイフォンの姿であった。
「おい、どいつがお前の連れだ?」
「そ、それは……」
男性に尋ねられ、答えるかどうか躊躇するアシュリー。
訂正……躊躇している"ふり"をするアシュリー。
「さっさと答えろ!」
「……」
男性に怒鳴られ、怯えた"ふり"をするアシュリー。
そして、またレイフォンと目が合う。
「あん?」
アシュリーの目線の先を追う男性。
「あの銀髪のガキが連れか?」
「……」
無言のまま、答えないアシュリー。
「そうか、あのガキがお前の連れなんだな」
アシュリーの反応を見て、そう判断した男性。
「おい! そこの銀髪のガキ! ビビってないでこっちに来い!」
男性に見つかってしまったレイフォンの表情は苦笑いを浮かべていた。
そして、思った。
(……何だ、この茶番は)
お読み頂きありがとうございました。
書籍1巻発売中です。




