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■SS『とある昔の出来事~レイフォン8歳~』

10月21日書籍発売記念SSです。




 とある昔の出来事。


 8歳の銀髪の少年レイフォンは、年上の少年3人に取り囲まれていた。


 少年3人は、領主の娘で伯爵令嬢のアシュリーといつも一緒にいるレイフォンのことを、気に食わない奴だと思っていた。

 

 両親を亡くし、ひとりきりの生活を送っているくせに、アシュリー様と親しくしやがって、と考えていたのだ。


「いいかレイフォン? これ以上痛い目をみたくなかったら、二度とアシュリー様に近づくなよ」


 リーダー格の少年は、ボロボロのレイフォンにそう忠告した。


「……」


 だが、レイフォンはフッと鼻で笑い何も言い返さない。


「おい、お前! 聞いてんのか!」


 そんな、レイフォンの態度が気に食わない少年は、レイフォンに足で一撃を食らわした。


「……」


 それでも、レイフォンは言い返さない。


 ただ、チラッと少年の目を見ただけである。


「な、なんだよその目は? いつもアシュリー様に守られてばかりいる弱虫のお前に睨まれたって、全然怖くないんだからな!」


「……」


 別に睨みつけたわけではないのだが、と思いつつ黙っているレイフォン。


「こいつ……少しばかりアシュリー様に気に入られているからって、調子に乗りやがって。なあ? もう少しこいつに立場ってものを教えてやろうぜ?」


「だな」


「こいつ、まだ何にもわかってないみたいだしな」


 まだ、痛めつけ方が足りないと考えた少年3人は、またレイフォンに暴力を振るうつもりだった。


 しかし


「何をやってるの、あなた達!」


 そこにひとりの金髪の少女が現れた。


「ア、アシュリー様?!」


「いや……俺達はただレイフォンと遊んでただけで……」


「そ、そうなんです! アシュリー様!」


 金髪の少女、9歳のアシュリーの登場に焦る少年3人。


 アシュリーはボロボロのレイフォンに近づき、彼に確認した。


「……そうなの、レイ?」


「……ああ、そうだよ」


 なぜか、レイフォンは否定ではなく肯定した。


「ほ、ほら? 言った通りでしょ?」


「……」


 少年3人はレイフォンの肯定の言葉に安堵した。


「えっと……俺達、用事があるので失礼しますね、アシュリー様。……レイフォンもまたな」


「「し、失礼します」」


 それから3人は逃げるようにして、その場から立ち去っていったのであった。


「……」


「……」


 ふたりきりになったレイフォンとアシュリーは無言。


 アシュリーは不服そうな表情をしていた。


「ねぇ、レイ? 遊んでたってのは嘘なんでしょ? それにどうしてやり返さなかったのよ?」


「嘘じゃねぇよ。ただの子供の遊びだ。つか、やり返すって何がだよ?」


 本当の事は話さず、はぐらかすレイフォン。


「何がじゃないわよ。そんなにボロボロになって……」


「別にアシュには関係ない事だろ?」


 そのレイフォンの言葉に、心配げな表情を、どこか寂しそうなものへと変えるアシュリー。


「嘘つき……。私は知ってるのよ……その……私と一緒にいるせいでレイが……って、痛っ! 何をするのよレイ!」


 悲しそうな表情でアシュリーがレイフォンに言った時、レイフォンが突然、アシュリーのおでこにデコピンをした。


「お前がそんな暗い顔なんてしてるからだろ? つか、俺は平気だ。そもそもあいつらのへなちょこパンチなんて、いくら受けようが痛くも痒くもないんだよ」


 本当に平気、大丈夫とアピールするかのように、ニッコリとした笑顔をアシュリーに向けて見せたレイフォン。


「レイ……」


 それでもアシュリーは、まだ自分のせいだとでも思っているかのような様子だった。


「だから、気にすんな。それに俺は、誰になんと言われようとアシュから離れる気はないからな」


「わ、私だってそうよ。だって……私はレイの事を――なんだから……だからずっと……」


 自分から離れない、そんなレイフォンの言葉にドキッとしてしまい焦ったアシュリー。


 顔を赤くさせ、レイフォンに言葉を返すが、その声は徐々に小さくなり、聞き取りにくいものとなってしまっていた。


「ん? 悪い、最後の部分が聞こえなかった」


「な、何でもないわ! と、とにかく、私もレイから離れる気はないわ。レイは私がいないと本当に何も出来ないダメ人間なんだから。私がレイの面倒を見ないで誰が見るっていうのよ」


 顔が真っ赤なアシュリー。


 何かを誤魔化すように、強めの口調でレイフォンに言葉を返した。


「……何も出来ないダメ人間って俺のことか?」


「そうよ」


 否定しないアシュリーの言葉に苦笑いを浮かべるレイフォン。


「……微妙に否定出来ないな。まっいいや……んじゃ、これからもしっかり俺の面倒を頼むなアシュ」


「言われなくてもそのつもりよ。それで? もう一度聞くけど、どうしてあいつらにやり返すか、逃げなかったのよ? 何もしないで、そんなボロボロになるまでっておかしいでしょ?」


 いつも通りに戻ったふたり。


 アシュリーは改めて普段通りの口調で、レイフォンに尋ねた。


「実はあいつら、何も知らないくせにアシュのことを好き勝手言いやがってたんだ」


 今度はちゃんと答えはじめたレイフォン。


「私の事を?」


「ああ……アシュの事を可憐な美少女だとか、おしとやかだとか、高嶺の花だとか、言いたい放題な」


「ん?」


 アシュリーは話の流れから、少年3人が自分の悪口か何かを言っていたのだと思っていた。


 だが、レイフォンから聞かされた言葉は、自分への悪口には聞こえない。


 むしろ、褒めているように聞こえる。


 アシュリーは話の流れが読めず、首を傾げた。


 そして、レイフォンは話を続ける。


「アシュが可憐? アシュがおしとやか? ありえない。本当のアシュは自分勝手でわがまま、そして暴力的だ。そんな本当のアシュの姿を知らないあいつらが、まるでアシュの事を天使か女神のように言ってたから、つい、おかしくなっちまってな。笑いをこらえながらついつい、逃げるのも忘れて聞いちまってたんだよ」


 おかしそうに、笑いながら話したレイフォン。


「へ?……それが理由でボロボロになるまでやられ続けていたと?」


 アシュリーの表情は引きつった笑顔。


 ただ、目が笑っていない。


「その通りだ。アシュが天使とか女神とかありえないよな、天使つうか堕天使だろ」


 まだ、アシュリーの様子に気づいていないレイフォン。


「……」


 無言になるアシュリー。


「どうしたアシュリー? って……やばっ、しまった!?」


 ようやく、自分が何をペラペラと話していたのか気づいたレイフォン。


 しかし、それはもう遅かった。


「ねぇ、レイ? ボロボロになっていたレイを見て私はどう思ったと思う?」


 強張った笑顔のアシュリー。その手に握られているのは、1本の木剣。


 一見朗らかだが、目はまったく笑っていない。


「えと……心配してれた、とか?」


 レイフォンの額からは汗がダラダラと流れている。


「そうね……心配したわ。でも、今は違うわ」


「ち、違うといいますと?」


「足りない、そう思うのよね」


 レイフォンの目の前には天使や女神どころか、もはや堕天使ですらない、まさに悪魔のような笑みを浮かべるアシュリーの姿があった。


「な、何が足りないのでしょうか、アシュリー様?」


「決まってるでしょ……ボロボロ加減よ♪」


 悪魔はニコッと笑顔でレイフォンにそう告げたのであった。


「は、はは……ですよね?」


 レイフォンはこの時、死すらも覚悟した。


 それからしばらく経って。アシュリーにとっちめられ、さらにボロボロになった姿で、小さく呟くレイフォンの姿があった。


「……もう、お婿にいけない」


 おわり。

お読み頂きありがとうございました。

いきなりのSSで失礼致しました。

SSは様子を見て置き場所を変更させて頂きます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


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