Episode 189
アシュリーの部屋
部屋の中にはレイフォンとアシュリーのふたりのみ。
「ア、アシュリー様?」
無言のアシュリーに恐る恐る声をかけたレイフォン。
「何かしらレイフォンさん?」
無表情で返事をするアシュリー。
「怒ってるのか?」
「怒ってる? 誰が? なんで? どうして? 別に怒ってないわ」
「……いや、怒ってるよな」
いつもとは違うが明らかに怒っていて、不機嫌な様子のアシュリー。
「怒ってないって言ってるでしょ? どうせ、ミリベアスの口車に乗せられてって感じなんでしょ。そのくらいはわかってるわよ……」
呆れの混ざった声。
「ごめん……」
レイフォンはとりあえず謝った。
「謝らないで、ムカつくから」
「……」
(このパターンの怒り方の時ってどうすればいいんだ?)
大抵はお仕置きされて終わる。
だが、今回は少し違う。
「訓練場でも言ったけど、俺が好きなのはアシュだけだ」
「……だから?」
「いや、だから……信じてほしいというか、なんというか……」
好きとの言葉も効果はなし。
流石にそこまでアシュリーは単純ではない。
(これなら、ひと思いに暴力振るわれた方がマシだ……)
レイフォンはアシュリーにお仕置きされることを求めていた。
たぶん、Mではない。
「……どうしたら許してくれるんだ? 俺が出来ることならなんでもやる」
「なんでも?」
レイフォンのなんでもとの言葉に反応を見せたアシュリー。
「ああ、俺が出来ることならな」
アシュリーは少し考える。
「なら……明日は私とデートすること、いいわね?」
「え? それだけ?」
何をさせられると思っていたのかはわからないが、痛くもない、危険もない条件に、レイフォンは拍子抜けを食らっていた。
「それだけじゃないわ。ちゃんと、私を満足させるデートをすること。わかった?」
「あ……わかった……」
追加の言葉で難易度が少し上がったが、レイフォンはしっかりと頷いたのであった。
「なら、私はもう睡眠をとるわ。だから、レイはもう部屋から出て行って」
「わ、わかった。おやすみアシュ」
―――
自分の部屋に戻るとそこには神様(子犬)の姿があった。
「ぷぷのぷ〜。モテる男はつらいね、レイフォン。神様であるボクが相談に乗ってあげてもいいんだよ?」
完全にレイフォンをからかっている様子の神様。
「ひさびさに神様とふたりきりで話すけど、やっぱり神様ムカつくな」
「相変わらず、神様のボクへの扱いが酷いねレイフォンは。それで、魔王に会ったんだよね? どうだった?」
ふざけた様子からの真面目っぽい話しへの切り替え。
「別に、むっつりっぽい普通のおっさんって感じだった。まっ、本気で敵対してるわけじゃないから、なんとも言えねぇけどな」
「そっか。ラブコメしてるのもいいけど、大会本番も、もうすぐだね。普通に戦えばレイフォンが優勝してしまうと思うけど……君にはその気はあまりないみたいだけどね」
「ま〜な。どこかタイミングを見て、わざと負けるかリタイアして離脱するつもりで俺はいる。前にも言ったけど世界の平和が左右されるような戦いに、俺は参加するつもりはないからな」
「それは、勇者達やアシュリー達の人間の役目だと言いたいんだね」
「ああ……。つか、俺は明日のことを考えないといけないんだよ。真面目な話しはお終いだ」
そう言って一旦話しを終わらせたレイフォン。
「まっ、明日の事なんてボクに関係ないけどね。ただ、さらなる修羅場は期待しているから、ぷぷっ」
からかいモードに戻った神様。
「……よし、久しぶりに額に文字を書いてやるよ」
そんな神様に対し、レイフォンは容赦はしなかった。
「えっ、ちょっ、なんでそうなるの! や、やめて……神様ヘルプミ〜!」
部屋を魔法で防音状態にしているので、神様の叫びは誰にも届かない。
翌日、神様の額には「阿呆犬」との文字が記されていたのであった。
お読み頂きありがとうございました。
10月21日にホビージャパン様のHJノベルスよりこの作品の書籍化が発売されます。
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