Episode 187
「……へ?」
嫉妬を感じていない理由を、アシュリーの事を好きだからと答えたレイフォン。
だが、そんな言葉が返ってくるとは予想もしていなかったアシュリーは、驚くというよりも、意表をつかれたようなポカーンした表情を見せていた。
「何だよその変な顔は?」
ポカーンした表情のまま、何も言葉を返してこないアシュリーに対し、レイフォンは眉を若干潜めながら声をかけた。
「あ、え? な、なに?」
「なにじゃねぇよ。アシュが聞いてきたから、俺は答えたんだろ? それなのに、急に変な顔して黙りやがって、まったく……」
そう言って、呆れたように自分の頭をかくレイフォン。
「ご、ごめん……で、でも! レイがいきなり変な事を言ってくるから悪いんでしょ!」
素直に謝ってきたと思えば、逆ギレのような口調で言葉を返してきたアシュリー。
かと思えば
「そ、その……あ、あれよ……いきなりレイが私の事を、好きだから、とか? い、言ってくるからでしょ……」
今度は小さな声で、恥ずかしそうにそう言ってきたアシュリー。
アシュリーはどのような態度で応えればいいのか、迷っていたのである。
「と、とにかく! レイがなにを言いたいのか、私にはわからないの! わかるように説明しなさい!」
命令口調で、レイフォンに向けて、右手の人差し指をビシッと突き指すアシュリー。
恥ずかしがっているのか、動揺しているのか、怒っているのか、よくわからない表情をしている。
そんな、アシュリーに対してレイフォンはやれやれといった様子で口を開いた。
「とりあえず、俺がアシュの事を好きだと言ったくらいで、そんなに恥ずかしがるな」
「は〜? は、恥ずかしがってないわよ!」
図星を突かれたアシュリーの顔は赤い。
「……あっそう。まっ、いい。なら、改めて言うけど、俺はアシュの事が好きだ。俺の気持ちは知ってるな?」
「……あ、うん」
「なら、アシュはどうだ?」
「え? わ、私??」
「いや、他にいないだろ? そうだよ、アシュは俺の事をどう思ってる?」
「わ、私もレイの事は好きよ……」
恥ずかしそうにゆっくりと答えたアシュリー。
そして、自分から聞いときながら、答えを聞いた途端に恥ずかしさを感じはじめたレイフォン。
「……」
「……」
妙な空気が流れ、ふたりは無言になった。
だが、その時間は数秒だった。
「あ、うん…答えてくれて、ありがとうございました」
「う、うん…ど、どういたしまして」
何故か他人行儀な言葉で、お辞儀をし合うふたり。
レイフォンは冷静を取り戻す為に、深呼吸をした。
「ふぅ〜……よし! とにかく、そういう事だ」
「へ? いや、ちょっと待って! なにがそういう事なのよ?」
「いや、だから……俺、アシュが好き、アシュ、俺が好き、だろ? だから、なんつ〜の? 俺は信じてるというか、だからかな、アシュが勇者の父親に会うって話を聞いても、あまり嫉妬を感じなかったんだと思う。悪い、上手く説明出来ない」
レイフォンは頭をかきながらそう言った。
そんな説明を聞いたアシュリーはなんとなくではあるが、理解したのであろう。
小さく頷いたのであった。
「そう……わかったわ」
レイフォンが自分の事をちゃんと好きである事。
自分の気持ちをちゃんと知っている事。
それを再確認出来た事にアシュリーは嬉しく思ったのだった。
「よし、ならそろそろ帰るぞアシュ」
頷いたアシュリーを確認してから、レイフォンは言った。
「うん、そうね」
嫉妬うんぬんの話は終了。
だが
「あっ、レイ?」
「なんだ?」
「帰ったら詳しく話してね」
「なんの話しだ?」
「ミリベアスのお父様に会った時の話よ。会って来たって言ったわよね?」
「え、ああ……」
レイフォンはすっかり忘れていた。
「帰ったら詳しく、嘘偽りなく誤魔化さないで全てを話してよね。私はレイと違って嫉妬してしまうタイプの人間なんだから。わかった?」
笑顔でそう言ってきたアシュリー。
そんなアシュリーに対しレイフォンは
「ワ、ワカリマシタ……」
カタコトの言葉で、苦笑いを浮かべて返事をしたのであった。
(や、やばい……)
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