Episode 182
ジャリックではない場所。
北の地域に位置するとある大地。
北の地域は人間立ち入り禁止の地域。
「なかなかやるではないか義息子よ」
「えっ、あ…どうも」
レイフォンは魔王と戦っていた。
流石に軽く戦うとしても、近くに人間達がいる場所ではマズイと判断したレイフォン。
レイフォンは魔王に提案をして場所を変えていた。
レイフォンも魔王も本気では戦ってはいない。
軽い手合わせ程度の戦い。
山がひとつ消滅していたりもするが…。
「あの…魔王様? 俺の実力もわかったと思うんでそろそろ終わりにしませんか?」
「何を言っている。楽しくなるのはこれからではないか」
(何を言ってるはこっちのセリフだ! 何が楽しくなるのはこれからだ。こっちは全然楽しくないんだよ。つか…ミリベアスは何をやってるんだ…)
ミリベアスはふたりから離れた場所で戦いを観戦していた。
「あっ、今わたくしのお腹をこの子が蹴ったわ。もしかして、応援してるのかしら。うふふ♪」
自分のお腹を優しく撫で微笑むミリベアス。
「あなた! この子が"パパ"がんばってって言っているわ」
(何を言ってやがるんだあいつは…)
「お父様! お爺様もがんばってとも言っています」
「うむ…そうか…」
若干ではあるが嬉しそうな表情を浮かべる魔王。
魔王にとって初孫。
多少なりとも嬉しさは感じているようだ。
だがしかし
実際にはミリベアスのお腹の中には子供など存在はしていない。
(つか…あいつの腹、微妙に膨らんでね? 気のせいか?)
気のせいではない。
ミリベアスのお腹は確かに膨らんでいた。
想像妊娠というやつであろうか。
「…さて、少しばかり本気を出すとしよう」
何故か妙な気合をいれる魔王。
(いやいや、本気とかマジで勘弁だから! つか、ミリベアス…いい加減にしろよ)
ミリベアスに向けて睨みを向けるレイフォン。
だが
「ほ〜ら、パパが笑顔でこっちを見ているわよ」
と、楽しそうにお腹に向かって話しかけるだけ。
レイフォンの口元は引きつっていたのであった。
(この件が終わったら覚えていろよ、ミリベアス)
ーーーーーー
レイフォンがパパ? になった頃、アシュリーはジャリック城の訓練場でひとり黙々と汗を流していた。
(何もない、何も起こらない、大丈夫。ただ、レイはミリベアスのお父様に会うだけ。深い意味なんてない、何もない…)
レイフォンのことばかりを考えながら。
「やあ、アシュリー」
訓練場に現れたのは勇者レオン。
(何もない、何もない、何もない…)
「アシュリー?」
(何もない、何もない、何もない…)
訓練に集中と言うか、レイフォンの事で頭がいっぱいのアシュリーはレオンに気づいていなかった。
「アシュ、リー?」
「わ!? ゆ、勇者様? いらしてたんですか…」
三度目でようやくレオンに気づいたアシュリー。
「あ、ああ。訓練に集中しているところ邪魔をしてしまってすまない」
「あ、いえ…こちらこそ気づかなくてすみません」
「あはは。大丈夫だよ。それより、今日はアシュリーに話があって僕はここに来たんだ」
「話、ですか?」
「ああ、実は明日から僕の父がこの国に訪れるんだ。よかったらアシュリーに僕の父に会ってもらいたいのだけど、どうだろうか?」
「私がですか?」
「べ、別に変な意味ではないよ。ぼ、僕のわ"仲間"として君を紹介したいんだ。マットとミミーは僕の父には会った事はあるけど、アシュリーは会った事なかったよね? だから、丁度いい機会だと思って…」
(勇者様のお父様…)
少しの間、考える仕草を見せたあとアシュリーは返事を返した。
「…わかりました。勇者様の仲間として勇者様のお父様にお会い致します」
「ほ、本当かい!」
アシュリーの了承の返事にもの凄く嬉しそうな表情で喜びを見せるレオン。
アシュリーは知らない。
レオンが父親に仲間とではなく、好きな女性を紹介したいと伝えている事は。
お読み頂きありがとうございました。
このたび、HJノベルス様より書籍化致します!
詳しい内容は、本日の8月15日の活動報告より随時載せていきます。
これからも宜しくお願い致します。




