Episode 181
自分に勝ったら魔王の座をくれる。
レイフォンはそんなとんでもない提案を魔王から言われていた。
「魔王の座を?」
「うむ。少しは興味があるか小僧?」
聞き返すレイフォンに魔王は尋ねる。
「興味? いや、まったく全然これっぽちもありませんけど?」
真顔できっぱりと答えたレイフォン。
「ほう…。これぽっちも興味はない? それは何故だ? 小僧が人間であるからか?」
「う〜ん、人間とかそんなの関係なく。単純に興味がないだけです」
「小僧が魔王になれば魔族と人間との争いも終わらせる事が可能だと言ってもか?」
「終わらせる事が可能とは?」
「魔族は魔王の命令には絶対に逆らわん。小僧がもしも魔王になり、魔族達に人間との争いを禁じる、殺すなと命令すれば従う。最近の若い魔族には命令を無視してこそこそと動いている者もいるが、それはほんの一部の者だけ。どうだ? 少しは興味が出てきたのではないか?」
「いや、まったく全然興味ありません。つか、面倒くさそうですし」
これにもレイフォンはきっぱりと答えた。
少し本音を漏らしながら。
すると、魔王は突然と笑いだした。
「ふはははは! 小僧、貴様は面白い人間だな。面倒くさいから魔王の座には興味ないと、そう言っているのか?」
「え? ぶっちゃっけ…そうですね」
認めるレイフォン。
「なら、小僧は何を求める?」
「いや、あえて言うなら魔王様がそろそろ魔国でしたっけ? に帰ってくれたらありがたいです。面倒な騒ぎになる前に、あとついでにその体も置いて言ってもらえるとありがたいんですけど?」
「我輩が聞いているのはそんな小さな事ではない、もっと大きな事だ」
(そんな事を言われても困る。つか、俺が今マジで求めてるのはあんたが大人しくさっさと魔国に帰ってくれる事だからな)
レイフォンは困り、苦笑いを浮かべていた。
そんな時、ミリベアスが余計な口を挟んできた。
「お父様? よろしいでしょうか?」
「なんだミリベアス?」
「レイフォンが真に求めているのはわたくしです」
魔王の目をしっかり見て真面目な表情で話すミリベアス。
「おいおい! ちょっと待てよ! 何を言ってやがりますんですかミリベアスさん?」
ミリベアスの発言に慌てるレイフォン。
ミリベアスはレイフォンを完全スルー。
「わたくしとレイフォンは魔族と人間との垣根を越えて一夜を何度も過ごした間柄なのです。もしかしたら、すでにわたしくしのこのお腹の中には……」
とんでも発言と共に優しい表情で自分のお腹を優しくさするミリベアス。
(待て待て待て! ある意味では間違ってはないけど、その言い方は間違っているからな! 明らかに誤解を生む。つか、何、その仕草は?)
レイフォンは本当に焦っていた。
これは本気で色々とまずいと。
「あの…? 魔王様? ミリベアスが今言った言葉はーーー」
誤解で何もないとレイフォンは魔王に説明しようとした。
だが
「うむ…そうか…わかった」
魔王はレイフォンの言葉など聞いておらず、少しの間だけ目を瞑り考える仕草を見せたあと、ミリベアスの目をしっかり見てから頷いた。
「ミリベアス…お前も親になるのだな?」
「はい…お父様…」
照れながらコクリと頷くミリベアス。
「マクベアスは黙ってはおらんぞ?」
「承知しております」
レイフォン放置でやりとりされる魔王親子の会話。
もうぶっちゃっけ何を言っているのかレイフォンにはわけがわからなかった。
(ミリベアスが親? は? 何言ってんの? この魔王と娘は?)
そして、やっと魔王がレイフォンに目を向けた。
目つきは鋭く、表情は真剣。
魔王はゆっくりと口を開く。
「小僧…いや、我が義息子よ。我輩は娘が己で選んだ相手がどんな者だろうと文句は言わん。だが、やはり確かめたい」
(ムスコ? はい? つか、確かめる? 何を?)
「ミリベアスが選んだ貴様がどれだけの力を持っているのかをだ。では、早速我輩と戦え義息子よ」
「は?」
魔王の座うんぬんよりもややこしくなった展開。
レイフォンは展開の状況が掴めずマヌケな表情で口をボカーンと開けていた。
そんなレイフォンにミリベアスは
「頑張って"あなた"」
と、手を振り微笑みながらエールを送っていたいたのであった。
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