Episode 180
「小僧、貴様がマクベアスを倒した人間であったのか?」
「え? マクベアスって誰の事ですか?」
魔王の問いに逆に尋ね返すレイフォン。
「レイフォン、わたくしのお兄様の名前よ」
答えたのはミリベアス。
「へぇ〜、そんな名前だったんだな。ミリベアスの兄貴で覚えてたから、名前は知らなかった」
知らないというか、覚える気がなかっただけである。
「それで、マクベアスを倒したと言うのは事実であるのか?」
改めて魔王はレイフォンに尋ねた。
「倒したと言えば、そうですけど…マクなんちゃらさんは本気じゃなかったから、たまたま勝てた。そんな感じですね」
「レイフォン? 貴方? お兄様の名前覚える気ないわよね? それに、本気という点ならレイフォンだって同じでしょ? 貴方は数パーセント程の力しか使ってなかったわよね?」
「名前は覚える気はない。けど、数パーセント程の力しか使ってないってのは違うぞミリベアス? 俺は常に全力を尽くす男だからな。魔族の王子に対して手を抜くなんて余裕があるわけないだろ?」
名前に関しては正直に答えたレイフォン。
しかし、力については堂々と嘘をついた。
面倒になると思ったからである。
(常に全力? レイフォンが? そんなありえない事実をアシュリーが聞いたら何て答えるかしらね?)
ミリベアスはすぐに嘘だとわかった。
「ほう…本気かはともかく、マクベアスを倒した事は認めるのだな小僧?」
魔王にとって大事なのはレイフォンがマクベアスを倒した事が事実かどうかである。
「いや、だからたまたまですよ、たまたま」
「本気を出していなかったから、たまたま勝てたと小僧はそう言いたいのか?」
「たぶん、お腹の調子とか悪かったんですよ。な? ミリベアス?」
ミリベアスにフォローを求めるレイフォン。
しかし、ミリベアスは
「万全の状態だったわよ、お兄様は」
と言って、フォローをする気がまったくなかった。
「ミ、ミリベアスさん?」
「何かしらレイフォンさん?」
(お前はどっちの味方だ!)
レイフォンは目で訴えた。
だが、ミリベアスは訴えをスルーし魔王に話しかけた。
「お父様? 事実かどうか確かめたいのでしたらレイフォンと手合わせなどしてみたらいかがですか? お兄様が本当に負けたのか、そして、わたくしがレイフォンに興味を持つ理由もわかると思いますよ?」
「うむ。確かにそれが手っ取り早い事であるな」
ミリベアスの提案に頷く魔王。
「ミ、ミリベアス! 何を勝手な事を言ってんだよ!」
ミリベアスに抗議するレイフォン。
「あら? レイフォンにだけにはわたくし、言われたくないわ? それに、これが(お父様に帰ってもらうには)手っ取り早いでしょ? 小細工などはもう必要ないわ」
(戦うとか、そんな展開になるのが面倒だから様子見しながら考えていたのに、台無しじゃねぇか…)
「では、小僧? 早速だが我輩と戦え」
ストレートな魔王様。
「ははは…魔王様と戦うなんて恐れ多いですよ」
魔王と戦う展開を避けたいレイフォンは苦笑いながらごまをする。
(面倒なだけよね?)
ミリベアスは思う。
そして、状況を悪化させる言葉を言い放つ。
「レイフォン? 別にお父様を倒してしまっても大丈夫よ?」
「ほう…」
ミリベアスの言葉を聞き目を鋭くさせる魔王。
「な、何を言ってくれてやがりますか! ミリベアスさん!」
慌てるレイフォン。
そんなレイフォンに魔王は鋭い目のまま
「小僧? 我輩にもし勝てたならば魔王の座をくれてやってもよいぞ?」
と、とんでもない提案を言い出したのであった。
「は?」
お読み頂きありがとうございました。