Episode 176
ジャリック城でのパーティ翌日の朝。
レイフォン達が借りているジャリック中心街から離れた一軒の家。
レイフォンはひとりでベッドで眠っていた。
「おはよう、レイフォン。ふふふ」
だが、薄っすらと目覚めたレイフォンの目の前にはにこやかに微笑むミリベアスの姿があった。
ブスッ
そして、顔と顔のわずかな隙間に突き刺さった剣。
「あら?」
「……」
軽く驚きを見せたミリベアスと寝ぼけ状態の無反応のレイフォン。
「…何をしてたのかしら?」
ベッドの横には仁王立ちた姿のアシュリー。
目が笑っていない。
「何って? ベッドで男と女。決まってるでしょ?」
ミリベアスはね転がったまま、顔だけアシュリーに向け言葉を返した。
「決まってる? って! な、な、何を言ってるのよミリベアス!」
顔が真っ赤なアシュリー。
アシュリーの反応を見て楽しそうなミリベアス。
「ん?……どうした? 何だこの剣?」
レイフォンはまだ寝ぼけている。
「どうしたじゃないわよバカ! どうしてレイはすぐにそう隙を作るのよ!」
「は? 隙? つか、アシュ? どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないわよ! 寝ぼけてないでちゃんと起きなさい! そして、説明しなさい!」
「説明? つか、ミリベアスは何で俺のベッドにいるんだ?」
やっと目の前のミリベアスに気づいたレイフォン。
「忘れちゃったのかしら? 昨日の事?」
「昨日の事? 何言ってんだ? って、ああ、あれ(魔王)の事か」
昨日の事=ミリベアスの父親でもある魔王がジャリックに来ているとの話の事と解釈したレイフォン。
アシュリーは知らない事。
ちなみにふたりはベッドから起き上がっている。
「昨日の事? 昨日の事って何よ! あ、あれって何をしたのよ!」
「は? 何を言ってんだ?」
話が噛み合わないふたり。
「何ってふたりは…その…あの…」
何かを勘違いし目をキョロキョロさせる顔の赤いアシュリー。
「レイフォン? (話の)続きする?」
顔を赤らめレイフォンに話しかけるミリベアス。
レイフォンはアシュリーの様子がおかしい事に気づいた。
同時に原因も。
(またこいつか…)
「ミリベアス! また、お前だな? ふざけるのはいい加減にしろ。アシュに誤解を招くような変な事を言いやがったな? アシュはこう見えて単純なやつなんだぞ。アシュもアシュだ。変な勘違いするな。いつものこいつの悪ふざけだろう?」
レイフォンは頭をかき、呆れた表情で話した。
「誰が単純なやつよ! わ、わかってたわよミリベアスの悪ふざけだったって事ぐらい…」
「あ…そう」
短く頷き話を続けるレイフォン。
「んでだな…昨日の事ってのは…」
(流石に本当の事を言うのはまずいよな。けど嘘もあんまりつきたくないし…)
「えっと…何でもだな、ミリベアスの父親がこの国に来てるらしいんだ」
嘘ではない。
「ミリベアスの父親? 何の事よ?」
「…ああ、実はな。もう一度言うけど、この国でもにミリベアスの父親が来ているらしいんだ。それでその父親がもの凄く変わっていて危険な人物らしいんだよ」
「危険?」
「俺も詳しくはわからないんだけどな。そうだよなミリベアス?」
「ま、そうね」
「でだ、昨日ミリベアスが城に突然現れたのはその事を俺に伝えに来たんだよ」
「そう、なの? でも、どうして私にすぐに話してくれなかったのよ?」
「危険な人物って言っただろ? だからアシュリーやマリベルには関わらせたくなかったんだよ」
(魔王だしな)
「そう…。そんなに危険な人なの?」
アシュリーはミリベアスに尋ねた。
「とても危険よ。普通の人間には手が負えないくらいに。そうね?…魔王と同等ぐらいに危険と言ってもいいわね。わたくしのお父様は」
(つか、魔王だしな)
「魔王と同等ぐらいって言われても想像がつかないけど大丈夫なの? それで?」
「とりあえずレイフォンに会ってもらうわ」
「レイに? 何で?」
「おそらくだけど、お父様の目的はわたくし。そして、レイフォンなのよ」
「まぁ、本当かはよくわからんないけどな。とにかくだ。危険な人物らしいからアシュ達が無理に関わる必要はない。ミリベアスの父親の事は面倒だけどミリベアスと俺に任せて、アシュは大会に備えておけよ」
「でも……わかったわ」
何かを言いたげそうだったアシュリー。
だが何も言わず、黙って頷いたのであった。
「終わったら詳しく話しなさいよね?」
「わかってるって」
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