Episode 174
ジャリック城内。
現在、パーティ会場となっている場所ではレイフォン、アシュリー、ミリベアス、ミカレ、シンメ、トリーの六人を除く参加者全員が床に倒れ眠っている状況となっていた。
「よし、俺達も帰って休むか」
「それはいいアイディアね。わたくしも賛成よ」
開き直るレイフォンとそれに賛成し乗るミリベアス。
南の勇者パーティの三人、ミカレ達はまだ状況を把握しきれていない様子。
「何を言ってるのかしら? ねぇ? レイ? 貴方は何を言ってるのかしら?」
アシュリーの表情は笑顔。
ただ、目が笑っていない。
「な、何って、全員寝ちまったからパーティは終了だろ? だから俺達も帰って寝ようかな〜、なんて」
とぼけた笑顔のレイフォン。
仮面で隠れ口元しか見えないが。
「は? レイはバカなの? 大バカなの? いえ、レイはバカだったわね…。こんな状況にしたのは一体どこのバカだと思ってるの? このままにして帰る? そんな事出来るわけないじゃない! 大騒ぎになる事がわからないの?」
「それはあれだ…仕方なかったんだよ。つか、騒ぎにはたぶんならないから大丈夫だ」
「大丈夫? 適当な事を言うな!」
「まぁ、落ち着けアシュ。別に適当に言ったとかなんかじゃねぇよ。魔法だよ、魔法。全員目が覚めた時には何も覚えてないはずだから」
「魔法? それならそう先に言いなさいよ!」
「言おうとしてたよ。けどアシュが…」
「私が何?」
怒り出したからとは言えないレイフォン。
「とにかく、大丈夫だから心配するな」
「何よそれ…。まぁいいわ。本当に騒ぎにはならない? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。俺を信じろ」
「信じるかは別として、わかったわ…はぁ〜」
呆れ疲れたたような溜息を吐いたアシュリー。
「ちょ、ちょっと待ってください! 魔法ってどう言う事ですか? まるでレイフォンさんがこの状況を作ったみたいな話をしていたように聞こえたんですけど?」
ふたりに割って入り声をかけてきたのはミカレ。
「えっと…みたいって言うか、この状況を作った犯人はこのバカ、じゃなくてレイなんですミカレさん」
「犯人とか人聞きの悪い言い方するなよ。あと、名前間違えかけたよな?」
「バカは黙ってなさい」
黙るバカ…いや、レイフォン。
「ミカレさん達も一応はレイが魔法を使える事は知っていますよね?」
ミカレ達に対し説明しはじめたアシュリー。
「はい…一応は」
「そのバカ…レイなんですが、ただ魔法を使えるのではなく無詠唱で魔法を使えるんです。ミカレさん達も魔法を使われると思いますのでわかると思いますが無詠唱を使える人間はとても珍しく貴重な存在です。魔法を絞って無詠唱を使える人ならそこまでは珍しくはないと思いますが…」
「レイフォン君は全ての魔法を無詠唱で使えるって事かしら?」
尋ねたのはシンメ。
「はい…」
「それって凄いわね。まるで天空ーーー」
「トリー! その話はいいわ」
トリーの言葉を止めたのはミカレ。
「ごめんなさいアシュリーさん。何でもないです。えっとつまり、この状況を作った犯人も、先程の東の勇者が突然と姿を消したのもレイフォンさんの仕業という事ですよね? それで無詠唱を使っているところを隠す為、見られないようにする為の結果、この状況になっている?」
「はい、大体はそう、ですね。無詠唱はもちろんなんですがバカは魔法を使える事自体を隠しているんです。バカが今、こんな変な格好をしていたり偽名を名乗ったりしているのも、それに関係しています」
「なるほど…なんとなくですが理解出来ました。全てはレイフォンさんの力を隠す為…ですね」
ミカレに続きシンメとトリーもなんとなく理解したように頷いた。
本当は今の状況以外にも尋ねたい事は山ほどあった。
例えば『天空人』についてなど。
だが、あえて深くは尋ねなかったミカレ。
「まだ、ちゃんと説明しきれていないのにその…助かります」
早い段階で状況を理解してくれたミカレ達に苦笑い気味に礼を述べたアシュリー。
そんな中、レイフォンが言葉を挟んできた。
「あのさ…俺の代わりに説明してくれてるのはありがたい、けどな? さっきからわざと名前間違ってるよな?」
「ミカレさん達には通じているからどちらでもいいでしょ?」
どうでもいい、そんな表情のアシュリー。
「よくねぇよ!」
ツッコミ入れるレイフォン。
「それよりも、ミカレさん達に誤りなさい」
「は? 何で?」
「わからないの? 自分が何をしてミカレさん達に迷惑をかけたのか?」
「あ、いえ、私達はただ状況が把握しきれなかっただけで別に迷惑とかでは…」
自分達は大丈夫。
そう苦笑いで主張するミカレ。
「迷惑じゃないって言ってるぞ? そもそもの原因はミリベアスだろ? 俺は仕方なく魔法を使っただけだ。俺は悪くない」
「いいから誤りなさい!」
「嫌だ」
「謝れ!」
「嫌!」
まるで姉弟のような言い合いをはじめたふたり。
その様子をミリベアスはいつの間にか持っていたワインを飲みながらクスクスと笑い観賞し、ミカレ達三人はただ苦笑いを浮かべ見守っていた。
「あ〜や〜ま〜れ!」
「い〜や〜だ!」
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