Episode 172
ミリベアスの父親、つまり魔王が中立国ジャリックに来ていると聞いたレイフォン。
「それって、魔王の事だよな?」
「そうよ」
「どうして?」
「それはわたくしにもわからないわ。直接は会ってないもの。だけど、確実にお父様の魔力を感じたのよ」
ミリベアスにもわからない魔王来訪の理由。
「何かを企んでいるとかか?」
「う〜ん、かもしれないけど、ひとつ言えるのは人間に危害を与える為に来たって事ではないわ」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
「お父様は魔王だけど、自分が言った事は守る魔族だもの」
「そうなのか? なら、何故……」
こそこそとふたりで話を続けるふたり。
「ちょっと、さっきからふたりで何をこそこそと話してるのよ!」
声をかけてきたのはアシュリー。
「ん? 挙式を挙げる場所を話し合っていたのよ」
平気で嘘をつくミリベアス。
「は? 何を言ってるのよミリベアス」
「嘘じゃないわよ。ねぇレイフォン?」
レイフォンに同意を求めるミリベアス。
「なわけないだろうが。つか、今の俺の名前はゼロだ。普通に呼ぶな」
「あら、そうだったわね」
「とにかくだ。ミリベアスが言っていた事は嘘だ。ただ、ミリベアスがいつもみたいに変な事を言ってきただけだ。だから気にするなアシュ」
「本当に?」
アシュリーの疑うような目。
「あ、ああ本当だ」
アシュリーに対し誤魔化し嘘をついた事に少しだけ罪悪感を感じるレイフォン。
「そう……。レ、じゃなくてゼロが言うなら信じるわ」
(悪いアシュ。嘘を付かないって言ったのに……けど、これは流石に話せないんだよな)
アシュリーはミリベアスが魔族である事は知らない。
「それより、ミリベアス? どうにかしてくれるかしら?」
「何をかしらアシュリー?」
アシュリーが指差したのはいまだに土下座の格好でぶつぶつと呟き続ける東の勇者カルカ。
「どうか俺にもっと罵倒を……どうか俺を踏みつけてください……どうか俺をーーー」
「いや……無理よ」
カルカをチラッと見て答えたミリベアス。
「なら、どうするのよ? ほら、ちらほらとこっちを見てる人達が現れはじめたじゃない」
「……仕方ないわね。レイ、ではなくゼロ協力頼めるかしら?」
「は? 俺が?」
「そうよ。このまま注目を浴びるのも嫌でしょ?」
「いや、まぁ確かに……。で? 俺は何を協力したらいいんだ?」
「それはねーーー」
レイフォンに耳元でごにょごにょと話すミリベアス。
「ーーーで、お願い出来るかしら?」
「わかった」
レイフォンからの協力の了承の返事を受け取ったミリベアスはカルカに声をかけた。
「貴方にわたくしから試練を与えるわ」
「試練ですか? 女王様?」
見上げて言葉を聞き返すカルカ。
「嫌、かしら?」
「いえ、喜んで!」
「なら、今から貴方を少し遠くに飛ばすわ。もし、朝日が登る前にこの街に戻ってくる事が出来たら、貴方の望む罵倒でも踏みつけでもしてあげるわ。だけど、戻って来れなかったら今度こそ、今後一切わたくしを含め関係する人物に近づく事を認めないわ。わかったかしら?」
「え? はい」
あまり理解は出来ていないが頷いたカルカ。
「なら、お願い……ゼロ」
「はいよ」
レイフォンが返事をした瞬間、カルカの姿がその場から消えた。
「今のって……」
「「魔法……」」
黙って見守っていた南の勇者ミカレと双子の姉妹シンメとトリー。
三人が驚いたのはレイフォンが使ったであろう魔法に対してである。
カルカ自体には無関心。
「どこに飛ばしたのよ?」
訪ねてきたのはアシュリー。
「ん? イースラ王国のどっか。強制送還ってやつだ」
「イースラ王国に? まっ、それはいいわ。それより目立ちたくなかったんじゃないのよ? こんなところで魔法を使ったら……ってあれ?」
アシュリーは気付いた。
ミカレ達三人も気づき固まっていた。
「大丈夫だ。念の為に俺の魔法の事を知っている五人以外には眠ってもらったからな」
普通に答えるレイフォン。
レイフォン含む六人以外、ペコを含む全ての人達が床に倒れて眠っていたのであった。
肩をぷるぷると震わせるアシュリー。
「な、な、何て事をしてるのよバカレイ!」
「へ?」
どうしてアシュリーが怒っているのかわからないレイフォン。
眠っている人達の中にはジャリック代表と、そして、三大国の国王の姿もあった。
(あれ? 俺、何かやらかしてしまったか?)
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