Episode 165
武道大会予選から一週間後。
レイフォン達一行は本大会の開催される中立国ジャリックへと向かっていた。
馬車を操っているのはレイフォン。
アシュリー、ミリベアス、マリベルの三人は馬車の中で昼寝をしていた。
レイフォンは隣にちょこんと座っている神様(幼女)に尋ねる。
「なぁ、神様? 俺って何の為に旅に出たんだっけな?」
「世界で何が起ころうとしているのか、世界の状況をレイフォン自身の目で確かめる為だよね。全ては確か幼馴染のアシュリーの為にだっけ?」
「そうだったな。けど思うんだ俺。何か違うって」
「何が違うんだい?」
「確かに世界の状況とかは少しはわかって見えてきた。だけど、俺はそれに関わるつもりなんてなかったんだよ」
「だったね。レイフォンは目立つのが苦手というか面倒なんだよね?」
「ああ…だから出来れば今すぐどこかに逃げたい。なんで俺が武道大会になんて参加してるんだよ?」
「それはハッキリと断らず彼女達に流されたレイフォン自身の招いた結果だとボクは思うけど」
「いや、それは確かにそうなんだけどな…」
自覚のあるレイフォン。
「レイフォンは何だかんだで彼女達には甘いよね。どうでもいい者には容赦がないのに。ねぇ、レイフォン?」
神様の的確な言葉にレイフォンはそっぽを向く。
「うるせー。で、何だ神様?」
「あの時、闘技場での戦いでレイフォンはミリベアスの兄マクベアスを殺すつもりだったよね本当は? だけどアシュリー、彼女達がいたから殺さなかったんだよね?」
「…さぁな」
神様の推測の言葉に濁した返事をするレイフォン。
「少しだけ怒ってるようにも見えたし」
「別に普通だったよ」
少しだけ泳いだレイフォンの目。
「そっか、まっいいんだけどね」
神様はそれ以上は何も言わなかった。
ーーーーーー
本日、宿泊する予定の街に到着したレイフォン達一行。
「おい! お前ら起きろ! 俺がひとり馬車を操ってる中、よくもそんなにぐっすりと寝ていられたもんだな」
レイフォンは三人を起こす。
「ん? 着いたの? ご苦労レイ」
「おはようございましゅ…レイフォンしゃん……」
目をこするアシュリーと寝ぼけているマリベル。
「何がご苦労だ。それともう夕方だ。つか、ミリベアスも起きやがれ!」
「わたくしに目覚めのキスをしてくれたら起きてもいいわ」
寝転び目を瞑ったままのミリベアス。
「いや、普通に起きてるだろうがお前は」
ーーー
それから、宿屋を見つけ馬車を置いたレイフォン達は晩御飯を求め街に繰り出していた。
まだウェスタリア王国内である為に有名人のアシュリーは顔を隠す為にフードを深く被っている。
「わたくし、お酒が飲めるお店がいいわ」
ミリベアスからのリクエスト。
「勝手にひとりで酒場にでも行ってこい」
レイフォンのそっけない対応。
「レイフォンのいじわる。だけど、そんなそっけない態度のレイフォンも嫌いじゃないわ」
何故か嬉しそうな反応を見せるミリベアス。
そもそもレイフォンは日頃からミリベアスにはそっけない態度をとっている。
「ふたりはリクエストあるか?」
ミリベアスをスルーしてアシュリーとマリベルに確認するレイフォン。
すると、声をかけてきたのは神様(幼女)。
「ねぇ? ボクには聞いてくれないの?」
「神様のリクエストを俺が聞くと思うか?」
「ひ、ひどい。さっきは馬車で普通に話していたのに。その態度の変わりようは何なんだいいったい? ボク泣いちゃうよ?」
「……で、ふたりはリクエストあるか?」
神様の抗議をスルーしたレイフォン。
「えと…私はどこでも大丈夫です」
苦笑いで答えるマリベル。
「ミリベアスはともかく、神様がちょっと可愛そうよレイ…」
しゃがみ込みぶつぶつ呟きながら地面に文字を書きはじめていた神様。
アシュリーは神様を見ながら言っていた。
「わ、私も可愛そうだと思います神様ちゃんが」
同意するマリベル。
「わかったよ…。神様! 神様のリクエストを聞いてやる。どこがいいんだ?」
仕方なくと頭をかいたあと、神様に声をかけたレイフォン。
「え? ボクのリクエスト? いいの? 聞いてくれるの? 本当に?」
まんまるした目をキラキラとさせながら振り向いてきた神様。
「本当だ。聞いてやるよ」
神様は立ち上がりとことこと歩いてくる。
レイフォンの前で立ち止まると顔を見あげてきた。
「えとね、えとね、ボクはお肉が食べたい。柔らかいお肉。柔らかいお肉がボクは食べたいなぁ〜♪ あはっ♪」
笑顔全開での神様からのリクエスト。
「「か、可愛い!」」
ハモり声を出したのはアシュリーとマリベル。
まるで天使のような神様の可愛らしい笑顔にハートを撃ち抜かれてしまったふたり。
天使ではなく神様だけど。
(そういえば、はじめのうちは神様ってふたりに可愛がられてたよな。確か)
「レイ! 柔らかいお肉よ。お肉を食べに行きましょう!」
「そ、そうです! 柔らかいお肉ですレイフォンさん!」
「ど、どうしたんだふたりとも?」
全力で神様のリクエストに賛成してくるふたりに圧倒されるレイフォン。
ふたりは神様の笑顔に魅了されていた。
「神様のあの可愛い笑顔を見てレイは何も思わなかったの? もっと見たいと思わなかったの?」
「は?」
「そうですレイフォンさん。可愛いは正義なんです。わかりますか? このキュンとする気持ちを?」
「は?」
ふたりの言葉の意味がわからないレイフォン。
「とにかく柔らかいお肉のあるお店を探すわよ。いいわね?」
「は? いや、別にいいけど」
「じゃあ、神様ちゃん。リクエスト通りに今からおいしい柔らかいお肉を食べにいきますよ」
「本当? やったぁ〜! わ〜い♪」
マリベルの言葉にはしゃぎ喜ぶ神様、とういかただの幼女。
このあと向かった肉料理の店で神様はふたりにチヤホヤとされる時間を過ごしたのであった。
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