Episode 164
武道大会予選の翌日の夜。
王都のアシュリーの屋敷ではレイフォンとアシュリーの武道大会本戦出場を祝うささやかなパーティーが執り行われていた。
「少年、おめでとう。流石だったな。俺には昨日の試合の少年の動きがまったく見えなかった」
「おめでとうレイフォン君。いえ、ゼロ君って呼んだ方がいいのかしら?」
レイフォンに声をかけたのはマットとミミー。
パーティーには勇者パーティーメンバーの三人の姿もあった。
「どうもっす」
「どうした少年? 嬉しそうに見えないが?」
「そうすっね。正直嬉しくないです。本来は出場するつもりなんてなかったんで」
「それは聞いていた。だから少年が出場すると聞いた時は驚いたし、わくわくした」
「私もよ」
「いや、わくわくされる意味がわからないんですけど…。本戦辞退とかしたらダメですかね?」
レイフォンの言葉に苦笑いのマットとミミー。
「それはーーー」
マットが言葉を返そうとした時。
「ダメに決まってるでしょ! 何を言ってるのよレイ。私との約束を忘れたの?」
アシュリーが会話に入ってきた。
約束とはアシュリーと真面目に戦う事。
思わず変な声を漏らすレイフォン。
「うげっ」
「何よ? うげって?」
アシュリーはレイフォンを睨みつける。
「何でもない。つか、本戦でもアシュと戦えるかなんてわからないだろ?」
「戦えるわ。本戦は一対一のトーナメント戦よ。私とレイが負けない限りどこかで絶対に当たるわよ」
自分はもちろんの事、レイフォンが負けるとは思っていない様子のアシュリー。
「俺が負けるかもしれないんだけど?」
レイフォンのネガティブ発言。
というかやる気のない発言にアシュリーの目が鋭くなる。
「は? 何を言ってるの? 負けたら殺すわよ」
「いやいや、何その脅迫? 負けたら俺死ぬの? 何で負けたら死亡のひとりデスゲームになってるわけ?」
理不尽だと思うレイフォン。
すると突然、一転して顔を少し赤らめ体をもじもじとさせはじめたアシュリー。
「だ、だって仕方ないでしょ…レイなんだから」
「俺だからの意味がわかりません。あと、体をもじもじとさせている理由もな?」
(何? 急に? こいつどうしたの?)
アシュリーの態度の変化の理由がまったくわからないレイフォン。
「まぁまぁ、アシュりんは照れているのよ。でしょ?
アシュりん?」
そんなふたりのやりとりに割って入ってきたのは先程からふたりのやりとりをすぐ近くで傍観し続けていたミミー。
「え、あ…うん」
頷くアシュリー。
「ほらね?」
レイフォンに言葉を振るミミー。
「いや、ほらねって言われてもどこにそんな照れるポイントなんてありました? 俺にはわかりません」
「殺すってとこかしらね? たぶん」
「殺すとこって…そうなのかアシュ?」
レイフォンは半信半疑にアシュリーに確認するように尋ねた。
「そうよ…私のレイへの殺すって言葉には色々な意味が含まれているの。察しなさいよバカ」
照れるというか恥ずかしそうにアシュリーから返ってきた答え。
「そうか……って! わかるわけないだろそんなの! 何度俺はお前に殺されかけたと思ってるんだよ! 察するなんて無理に決まってるだろうがよ」
レイフォンは納得しない。
「それでも察しなさいよバカ。それに誰に向かってレイはお前って言ってるのかしら? 殺すわよ?」
アシュリーの恥ずかしそうな表情からの鋭い目。
「今、普通に殺すって言ったよな? 意味なんてなく普通に殺すって言ったよな?」
「い、今のはね…」
鋭い目からの照れ。
ころころと変わるアシュリーの態度についていけないレイフォン。
「違いなんてわかるか!」
レイフォンはとりあえず叫んだのであった。
ーーー
一方その頃、パーティーに訪れていた勇者レオンはひとり壁際の床に体育座りをしワインをちびちびと飲んでいた。
「あ〜、羨ましい……僕なら喜んでアシュリーに殺されるのに。いや、殺されたい。あ〜、羨ましい羨ましい……本当に羨ましい」
愚痴? を吐きながら。
「それに僕は勇者だというのに扱いがひどくないか?」
そんなレオンの前に現れたひとりの幼女。
「君の気持ちはボクにも少しわかるよ。お互い頑張ろう」
「え、あ、そうだね。ありがとう。君は?」
「ボクは神様だよ。それじゃあね勇者」
そして、立ち去る神様。
「神様? 変わった名前の幼女だったな。けど、よくわからないけど少し頑張れる気がしてきた。よし、頑張ろう」
わからないが急に元気が出てきたレオンは立ち上がりアシュリー達のところに向かったのであった。
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