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Episode 163

 闘技場の医務室のベッドで目を覚ましたマクベアス。


 マクベアスは敗北を認めたあとすぐに意識を失っていた。


「お兄様、お目覚めになられましたか」


 ベッドの横の椅子に座り声をかけてきたのはミリベアス。


「ミリベアスか……私はあの人間の小僧に敗北したのだな……」


 敗北はもちろん、意識を失うなどマクベアスにとってははじめての経験だった。


 まるで夢でも見ていたかのような感覚。


「はい。それはもう見事に一方的に。流石のわたくしもここまでは予想しておりませんでした」


「そう、か……ん!?」


 マクベアスは何かに気づいた。


「どうかなされましたかお兄様?」


「いや、私はあの小僧に両腕両足を斬り落とされたはずなのだが……」


 マクベアスの体は元通りに戻っていた。


「それはレイフォンが元通りに魔法で治したんです」


「小僧が? 何故だ? それに元通りにはならないはずではなかったのか?」


 確かにそう言っていたし、自分の魔法でも確認済みだった。


「観客の大勢の目もありましたし、そのままではマズイとでも思ったんですよ。元通りにならないはずというのはわたくしにはわかりませんが」


「そうか……」


「はい」


 目を瞑り考えるマクベアス。


 そして、突然と笑い出す。


「くっ、ふふ…はははは! 私は本当に敗北したのだな。この私が何も出来ずにあっさりと」


「はい、それはもうあっさりとレイフォンの圧勝でしたわ。どうでしてかお兄様? わたくしの将来の旦那様は?」


「今でも殺してやりたいくらいに気にくわない小僧だ。だが強さだけは認めよう。あれは人間ではない。人間に似た何かだ」


 マクベアスの率直な感想。


「そうですね。レイフォンは間違いなく普通の人間ではありません」


「ああ、あんなのが普通の人間だと言うのならば魔族はすでに滅んでいるだろう」


「お父様でもレイフォンには勝てないと思いますか?」


「父上は確かに強い。次元が違うと言ってもいい。だが、あの小僧はそれ以上の力、何かを持っている」


 定かではない確信。


「ふふふ、お兄様がレイフォンを認めてくれたみたいでわたくしは嬉しいですわ」


 嬉しそうに微笑むミリベアス。


「勘違いするなミリベアス! 強さは認めるがミリベアスの相手としては死んでも私は認めん! あの小僧に伝えといてくれ。今回は私の完敗は認める。だが次は私が勝利するとな。その時に私の真の姿と力を見せてやるともな」


「ふふふ、わかりました。一応は伝えておきます」


「ミリベアス? 何故笑う?」


「いえ、お兄様の言葉が負け犬の遠吠えといいますか、そのようにしか聞こえなくてつい……」


 ミリベアスの言葉がマクベアスに精神的ダメージを与える。


「ミ、ミリベアス……」


「敗北したお兄様は新鮮ですわね。少しだけ大人しくなったというか」


 ミリベアスは楽しそうに話す。


 さらなる精神的ダメージ。


「……」


 マクベアスは黙り込む。


 そして、弁解をはじめる。


「いや、確かに私は小僧に敗北したがあれはーーー」


「言い訳ですか? お兄様らしくない。いや、これも新鮮でいいですわ。どうぞ続けてくださいお兄様」


「……いや、その…何でもない」


 何も言えないマクベアス。


「あら、そうですか残念です。とりあえず約束通りわたくしは魔国には帰りません。それでいいですね?」


「ああ…だが」


「だが何ですかお兄様?」


「な、何でもない…」


 やはり何も言えないマクベアス。


「なら、わたくしはもう行きますね。将来の旦那様に労いの言葉をかけないといけませんので」


 ミリベアスは椅子から立ち上がる。


「……ああ。その…ミリベアスは私を心配してここに訪れてくれたのか?」


 マクベアスの言葉に首を傾げ人差し指を口元に当て考える仕草を見せるミリベアス。


「う〜ん、一応はそうですね。あとは敗北したお兄様のお顔を拝見したかったというのもありますね」


 イタズラめいた表情。


 皮肉メインとも言える返事。


「そうか…ありがとうミリベアス」


 だが、マクベアスは嬉しそうに微笑み感謝を述べた。


 皮肉を言ったつもりだったので感謝を述べられた理由のわからないミリベアス。


 マクベアスの微笑みにも少し調子を狂わす。


「ん? いえ、わたくしは別にーーー」


「わかっている。もう行くといいミリベアス。私もこのあとすぐに魔国に帰るとしよう。元気でな可愛い妹ミリベアスよ」


 微笑み続けるマクベアス。


「……はい、お兄様もお元気で」


「ああ」


 調子の狂ったミリベアスはマクベアスに挨拶を返し、医務室をあとにしたのであった。




 医務室にひとりになったマクベアス。


 微笑みは完全に消えていた。


「……小僧、私に勝利したからといって私の可愛い可愛い超セクシーナイスボディに成長した妹ミリベアスに指一本でも手を出してみろ。絶対に殺すからな。どんな手を使っても、私の軍をすべて使ってでもな。場合によっては魔国の総力をあげて」


 自分の敗北よりも妹の方が大事で大切なシスコンマクベアスは愚痴っていた。


「魔国に帰ったら父上にも報告しなければねらないな」


 このあと魔国に帰ったマクベアスは父である魔王にレイフォンの事を報告したのであった。


 自分が敗北した事、レイフォンの強さの事ではなく、ミリベアスをたぶらかしている人間がいるという報告だけを。


お読み頂きありがとうございました。

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