Episode 162
「さてと、どうするあんた? 負けを認めるなら今のうちだけど」
唐突なゼロからの提案。
当然マクベアスは拒否を示す。
「何を言っている小僧が。私の腕を斬り落とした程度で勝ったつもりでいるのか? ふざけるなよ人間が! この程度……ん? どうして元に戻らないのだ……」
ゼロを睨みつけながら右肩を押さえ右腕を元に戻す為に治療魔法を発動させたマクベアス。
しかし、右腕が元に戻る気配がまったく感じられない。
マクベアスが不思議に思っているとゼロが思い出したかのように話しかけてきた。
「あ〜、言い忘れてたけどその腕は戻らないからな。例え魔族の再生能力だろうが次期魔王様のあんたの魔法でもな」
「どう言う事だ…?」
険しい表情と視線で尋ねるマクベアス。
ゼロは剣を見せながら説明する。
「俺のこの剣さ。魔法剣つーの、特殊な剣なわけ。で、この剣で斬られたものは元には戻らない。魔族は確か体の一部が破損しても再生される特殊能力だったか? だけど、この剣で斬られればその再生能力も無効化されるんだよ。普通の魔法でも治せない」
ゼロが使用している剣は魔法剣『シュレイドハイン』。
ゼロ、レイフォンが複数所有している魔法剣の一本である。
アシュリーに奪われ、ではなくプレゼントした魔法剣『エンファート』の属性が炎だとすれば、この魔法剣の属性は無である。
「そんなバカな事が!」
信じられない、認められないとの反応をみせるマクベアス。
「なら、どうしてあんたの腕は戻らないんだ? あんたなら再生能力じゃなくても魔法で治せるはずだろう?」
「それは……」
「もう試したんだろ? ならわかるだろ? 次は左腕を斬り落とす。その次は右足、左足…最後に首を斬り落とす。はじめに言ったけど負けを認めるなら今のうちだ。さっきはわざと殺さなかったけど、負けを認めないなら本当に殺すけど、どうする?」
淡々とマクベアスに上から目線で話しかけるゼロ。
ゼロからは特に大きな魔力などは感じられない。
そんなゼロにマクベアスは怒りと同時に違和感を感じていた。
(な、何なんだこの人間の小僧は……本当に人間なのか?)
「さぁ、どうする?」
右腕が元に戻らなかろうが、違和感を感じようが負けなど認められるわけがないマクベアスは己の魔力を高めはじめた。
「……決まっているだろうが、私が人間の小僧ごときに敗北など認められるわけがないだろうが! いいだろう、見せてやろう私の本気の力をーーー」
マクベアスの体から漏れ出していた魔力が増幅しふくれはじめた時だった。
スパーン
マクベアスの左腕が斬り落とされた。
「ーーーぐぁああああああ!」
「いや、別に本気の力だとかどうでもいいから」
剣に付いた血を払い、苦痛の声をあげるマクベアスに興味なさ気に声をかけてきたゼロ。
「き、貴様ぁああああああ!」
怒り叫ぶマクベアス。
「あ、はいはい、っと」
スパーン
おかまいなしにと躊躇なくマクベアスの右足を斬り落としたゼロ。
「ぐぁああああああ!」
バランスを崩し地面に倒れ込んだマクベアス。
そんなマクベアスをゼロは興味なさそうに見下げている。
マクベアスは困惑していた。
(こ、この人間、いや小僧は人間ではない…何者なのだ……)
「ほら、次は左足だけどどうする? 一応あんたはミリベアスの兄ちゃんなんだから俺も少しは殺してしまう事には抵抗があるんだよ。だから最後にもう一度聞くけど、負けを認めるか? じゃないと本当に殺すけど?」
ゼロからの最終通告。
「ふ、ふざけるーーーぐぁああああああ!」
抵抗虚しく左足までも斬り落とされ胴体と頭だけとなったマクベアス。
はじめは歓声のあった客席は今ではシーンと静まりかえっていた。
あまりにもマクベアスの姿が無残な状態だからである。
「あとは首で終わりなんだけど ど う す る?」
ゼロからの本当の最終通告である。
悔しそうな表情で見上げゼロを睨みつけるマクベアス。
ゼロは呑気にあくびをしている。
(何なのだこの状況は…私がどうしてこのような屈辱を……何なんだ、何なんだ…この小僧は……)
まったく予想もしていなかった歯が立たない展開にマクベアスは困惑し頭を悩ませていた。
(私が敗北だと? この私が? しかも一方的に、だと…。魔族の王族である私が……)
いくら悩もうと考えようと今の体ではどうする事も出来ない。
認めたくはないが今の自分ではゼロに勝てない……。
マクベアスは歯を食いしばり苦渋の決断を示す。
「くっ……わ、わかった…認める……」
「何を認めるんだ?」
わかっているだろうにわざと確認するゼロ。
「わ、私の敗北をだ……くっ」
マクベアスは敗北を己で認めた屈辱と悔しさからか、強く歯を食いしばり過ぎて口元からは血がボトボトと流れていた。
切り落とされ両腕、両足の切断面から流れている大量の血に比べれば些細なものではあるが。
とにかくバトルロイヤルDブロックはゼロ(レイフォン)の勝利で決着がついたのであった。
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