Episode 161
闘技場の観客席にはアシュリー達四人の姿があった。
競技場での異変に気づいたアシュリーは不安そうな表情を浮かべ神様に尋ねていた。
「神様…これって……」
「うん、幻覚魔法だね」
「やっぱり…じゃあ魔法結界は…」
「消えているね。普通の人間達は気づいていないみたいだけどね」
神様の返答を聞き拳をつくり口元に当て考えるそぶりを見せるアシュリー。
そんなアシュリーと神様に何やら楽し気な表情で話しかけてきたのはミリベアス。
「あら、ふたりは気づいたのね。だけど大丈夫よ。問題ないわ、ふふふ」
「問題ないって! ミリベアス何を!」
魔法結界は戦う参加者の安全を保証するもの。
魔法結界が張られていれば例え腕が切り落とされようが競技場の結界内から出れば元通りになる。
生死に関わる致命傷だと判断されれば場外へと飛ばされる。
だが、今は結界は張られていない。
マクベアスの幻覚魔法で結界張られているように見えているだけである。
マクベアスの魔法を見ていたアシュリーは不安を感じていた。
あんな魔法、攻撃をまともに受けてしまったら流石のレイフォンでもただでは済まないと。
最悪のパターンまでもがアシュリーの頭にはよぎっていた。
「大丈夫だよアシュリー。レイフォンなら心配ないよ」
「だけど……」
「問題ないわ。それより、そろそろ再開されるみたいよ。大人しく観戦しましょう」
不安を感じるアシュリーをよそにまったく心配するそぶりなど見せないふたり。
どうする事も出来ないアシュリーは黙って従い競技場に視線を向けたのであった。
ーーー
ゼロ(レイフォン)とマクベアスのふたりだけになった競技場。
ふたりは向かい合い会話を交わしていた。
会話をしている映像は映し出されているが声は観客席など周囲には聞こえていない。
「小僧、死ぬ覚悟は出来ているな?」
「え? あ、まぁ〜出来てるんじゃないっすか?」
「何だ、その適当な返事は? 諦めたのか? しかし、まぁ無理もない。普通の人間が私に勝てると思う方が無理な話だからな」
「そうっすね…」
「そうだ小僧。小僧を殺したら次はミリベアスに付きまとっていた小娘の人間達も殺してやろう。私の可愛いミリベアスに人間の友人など相応しくないからな」
マクベアスの言葉に若干ではあるがピクッと体を反応させたゼロ。
「ふ〜ん、殺すね…。けどそれは俺を殺せたらの話だよな? 俺を殺せたらのな」
唐突にマクベアスに挑発めいた言葉をかけだしたゼロ。
「何が言いたい小僧?」
マクベアスの鋭い視線。
「いや別に。とりあずさっさとはじめて終わらせようぜ」
「ふっ、小僧に言われなくともわかっている。ならばーーー死ね」
はじめに動いたのはマクベアス。
マクベアスの魔法(黒いレーザー)がゼロに向かう。
しかし
「な!?」
「何を驚いているんだ? ただ魔法を消されたぐらいで」
いつの間に拔いたのか、ゼロは剣で魔法を糸も簡単に斬り消した。
この攻撃で簡単に終わると思っていたマクベアスは若干の動揺を見せる。
「お、驚いてなどおらん。ただ小僧を試しただけだ。ミリベアスの言っていた通り、そこそこはやるみたいだな小僧。だが次で殺すーーー死ね」
気を取り直して再度の魔法。
「な!?」
だが、これもまた消されてしまった。
「また驚いてるし。言っておくけど俺には普通の魔法は効かねぇよ。遠慮なんてしなくていいから普通に攻撃してこいよ…次期魔王様」
のんびりした口調。だが明らかにマクベアスを挑発する態度を見せるゼロ。
「小僧…貴様」
屈辱を感じゼロを睨みつけるマクベアス。
「心配するな。あんたとミリベアスの正体を知ってるのは俺だけだから」
正確には神様も知っている。
「それに別にバラすつもりはない。つか、魔族だろうと人間だろうと俺にはどうでもいい事だしな。だから、遠慮なく殺しにこいよ。俺を殺せるならな」
「調子に乗るなよ人間。私は別に正体がバレようとどちらでもいいのだ。私の目的は私の可愛いミリベアスをたぶらかす人間。小僧の貴様を殺しミリベアスを魔国に連れ帰る事にあるのだ。少し私の攻撃を防いだ程度でいい気になるなよ」
マクベアスの体からは黒い魔力が漏れ出している。
「別にいい気になんてなってないさ。ただ、俺は言ったよな? 周りを巻き込むなって、そしてあんたは了承した。だけどあんたは俺を殺したあとにアシュリー、ミリベアスの周りにいた人間を殺すって言ったよな?」
一瞬ではあるが仮面越しに鋭い視線を見せたゼロ。
「ふ、それがどうした。そんなのは私の自由だ。人間と交わした事など私が守る必要はない」
当然だと言わんばかりに鼻で笑うマクベアス。
返答を聞いたゼロは小さく呟く。
「そっか。ならーーー」
そしてーーー動いた。
「な!? 小僧いつの間に!?」
ゼロは剣を片手で振り上げた状態でマクベアスの背後に立っていた。
マクベアスには全く動きが見えていなかった。
「ーーー死ねよあんたは」
呟きのあとに躊躇なく振りかざされる剣。
スパーン
「ぐぁああああああ!」
苦痛の声をあげるマクベアス。
切り落とされたマクベアスの右腕。
観客席からは歓声があがる。
中には悲鳴をあげる者もいるが、魔法結界が張られていると思っているので気にする者は少ない。
「流石に首はマズイよな。危ない危ない」
本当はマクベアスの首を切り落とすつもりだったゼロ。
だが途中で気づいたのである。
こんな大勢の場所で殺したらシャレにならないと。
そんなのんきにひとりごとを呟くゼロをマクベアスは右腕のない右肩を押さえながら苦痛と怒りの表情で睨みつけていたのであった。
(人間の分際でよくも私を……必ず殺す)
お読み頂きありがとうございました。
更新遅れて申し訳ございませんでした。
必ず完結まで更新致しますので、これからもよろしくお願い致します。
あと、相変わらずの文章力で本当にすみません。