Episode 159
バトルロイヤルAブロック。
会場は約三万人を収容出来る巨大な円形闘技場。
競技場も百人が同時に戦っても大丈夫そうな十分な広さ。
映像を撮影する為の魔道具がいくつか設置されており、競技場の中央の上空にその映像がリアルタイムに四方に大きく映し出されていた。
客席は満席。
アシュリーの名前が書かれた横断幕のようなものまで見える。
流石は英雄の女神様。
大人気である。
国王同席のもと開会式が行われ、いよいよウェスタリア王国武道大会予選がはじまる。
あのテストがなければもっとスマートに開幕するはずだったのたが……とりあえず忘れよう。
そうこうしているうちにAブロックで戦う参加者百人が競技場に姿を現した。
観客達の大きな歓声。
目立って聞こえてくるのはアシュリーコール。
そんな歓声、声援に応えるかのようにアシュリーは観客達に笑顔を見せて手を振っていた。
ーーーーーー
「凄い人気ですねアシュリー」
呟いたのはマリベル。
レイフォン、ミリベアス、マリベル、神様(幼女)の四人は客席に並んで座っていた。
「そりゃあ、アシュは国の英雄だからな」
「英雄の女神様だったかしら? あの娘、この名前で呼んだらすぐ怒るのよね」
「ボクはカッコイイと思うんだけどね。ほら見て、英雄の女神様クッキー」
神様が見せてきたのら普通のクッキー。
ただ、クッキーに焼印で英雄の女神様と付いただけのクッキー。
それだけなのに通常のクッキーの倍の値段である。
それでも売れているらしいのが凄いところだ。
「レイフォンは最終日よね? お兄様と。お兄様凄くやる気をみせていたわよ」
「知ってる。殺意全開で殺すって言われた。つか、しむけたのはまたお前だろミリベアス?」
「そうよ」
疑わしい目で見るレイフォンにあっさり認め答えたミリベアス。
やっぱりとため息をつくレイフォン。
「まっ、問題ないわ。お兄様がやる気だろうと殺る気だろうとレイフォンは負けないでしょ?」
「さぁな。つか、なんでやる気って同じ言葉を繰り返したんだよ?」
「言葉の意味が違うのよ。ほら、そんな事よりアシュリーの試合がはじまるわよ」
ミリベアスの言葉は深くは考えないようにしたレイフォンは競技場に立つアシュリーへと視線を向けたのであった。
ーーーーーー
競技場。
「ア、アシュリー様、本日はよろしくお願いします」
「じ、自分がアシュリー様をお守りします」
「ア、アシュリー様よろしかったらあとでサインを……」
表面上は笑顔のアシュリー。
だが、内心はイライラしていた。
理由は先程からアシュリーに声をかけてくる男性参加者達にあった。
今から戦う敵同士だと言うのに緊張感の無さ、よろしくはともかく何がお守りします、何がサインをーーー
(ふざけるんじゃないわよ!)
と、思っていた。
「ふふふ……私に勝てたら何でもしますのでどうか皆様、手加減などせずに"本気"で立ち向かって戦いに来てくださいね」
アシュリーからのリップサービスだと勘違いした参加者達は喜びとやる気を見せる。
アシュリーが思ってたのとは違う生ぬるいやる気。
アシュリーは心の中でため息をついた。
(はぁ〜 このブロックは駄目ね。私の本番は本大会からよ。だからこの戦いはすぐに終わらせるわ)
それから開始されたAブロックのバトルロイヤル。
アシュリーは言葉通りに戦いをすぐに終わらせた。
精霊竜である双炎竜の力も魔法剣エンファートも使わずに、己自身の魔法の力のみで。
千を超えるのではないかと思われる上空に現れた炎の槍。
もちろんアシュリーが魔法で出現させたものである。
開始直後に出現させたその魔法、炎の槍でアシュリーは冷酷にも見える冷たい目をして次々に参加者達の心臓や額を射抜き全滅させた。
安心してほしい。
参加者達は誰ひとりとして死んではいない。
この大会の真の目的は魔族と戦うメンバーを選出する戦いである。
人間同士に殺し合いをさせるはずがなかった。
競技場には特殊な結界が張られており、参加者が生死に関わる致命傷を受けたと判断された瞬間に別のところへ飛ばされる仕組みになっていたのである。
なので正確には参加者達は射抜かれてはいない。
尖端が少し刺さった状態である。
この結界が無ければ参加者達は本当に死んでいただろう。
だからアシュリーは遠慮などしなかった。
競技場にひとり立つまだ冷たい目の表情のアシュリーの姿。
アシュリーはどこか遠く、誰かを見つめていた。
(レイ、私は買ったわ。貴方も絶対に勝ちなさい。勝たないと本気で射抜くわよ)
静寂のあと、会場である闘技場内は大きな拍手や歓声につつまれたのであった。
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