Episode 142
新年明けましておめでとうございます。
ウェスタリア王国。
王都にある酒場。
「アシュリーはまだなのかい? アシュリーはいつ王都に、僕に会いに帰って来るんだミミー?」
テーブルにうつ伏せ、ミミーに尋ねかけたのはアシュリーLOVEの西の勇者レオン。
「あっ、マット? そのサラダ私の」
「お、そうか。ほら」
「ありがとう。それにしてもアシュりん遅いわよね。もうとっくに到着していてもいいはずなのにね」
「まっ、じきに到着するだろう」
「そうね」
ミミーとマットはレオンを見ていない。
「あの……ミミー? マット?」
「そういえば旅にはレイフォン君も一緒だって書いてたわね」
「まっ、そうだろうな」
レオンをスルーするふたり。
毎日のようにアシュリー、アシュリーとぶつぶつとしつこく話すレオンにふたりは完全に呆れていた。
いや、面倒になっていた。
「か、彼が! レイフォン君が一緒だって! 僕は聞いていない!」
バンっとテーブルを叩き立ち上がったレオン。
「それでミミー? もしかして少年も予選に?」
「それはわからないわ。だけど、レイフォン君、力を隠したがってるみたいだったから出ないんじゃないの?」
「そうか……それは残念だな」
「そうね……」
音を立てようが声を出そうがスルーされるレオン。
「あの……」
「あ、レオン居たの?」
「お、レオン居たのか?」
わざとらしいふたり。
「いや、僕はさっきからーー」
「私達はそろそろ帰るから」
「支払いは任せた勇者」
そして、店をさっさと出ていったふたり。
残された勇者レオンは
「え? なんで? どうして?」
ふたりの扱いの酷さに訳がわからず、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかったのであった。
ーーーー
王都に向かうレイフォン達の乗る馬車。
「まさか、神様さん(子犬)が神様ちゃん(幼女)で実は精霊だったなんて本当に驚きました」
「ごめんねマリベル。ボクが精霊だってことを黙ってて」
マリベルの膝にはいつの間にか合流していた神様(幼女)が座っていた。
「流石は精霊ね。体の成長を自由に操れるなんて」
人間体、成長した姿しか見ていなかったミリベアスは幼女姿の神様を興味深そうに感心するように見ていた。
「ま~ね。ボクは精霊だからね。えっへん」
偉そうに、平気で嘘をつく神様。
「そういえば、アシュリーの精霊竜はいつ見れるのかしら?」
アシュリーはミリベアスとマリベルに自分が精霊竜との契約者であることを告白していた。
「ふたり、カシとヤンは神様みたいに簡単には現れられないから、まっ、そのうちね」
「あら、残念。ところで、神様?」
「なんだいミリベアス?」
「貴女は精霊何になるのかしら?」
「それはねーー」
「精霊犬だ」
答えたのは馬車を操っているレイフォン。
「ちょっ、レイフォン!」
違うと言いたげな神様。
「精霊犬? 狼なら聞いたことはあるけど、犬ってのは初耳ね」
「ああ、そいつは雑種だからな」
精霊に雑種ってあるの? と思った3人。
「けど、まさかレイフォンさんの契約精霊だったとは」
「レイフォンの魔力なら、こうして長時間普通に精霊がこっちの世界に居られても不思議じゃないわよね」
いつのまにか神様はレイフォンの契約精霊という設定になっていた。
「ま~な。早く帰ればいいのに(天界に)」
『レイフォン、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか?』
『そもそもなんで俺が神様の契約者って事になってるんだよ?』
『だって、アシュリーには双炎竜がいるし、ね?』
『ね? じゃねぇよ。なんで俺が犬と……』
『だからボクのことは精霊狼とーー』
『いや、どう見ても犬だからな。今は幼女だけど』
頭の中で直接会話をしていたレイフォンと神様。
レイフォンが契約者だと言い出したのは神様である。
「マリベル? よかったらその駄目犬、神様欲しいならやるぞ?」
「えっ? でも私は魔力なんてありませんから」
「なら、ミリベアス?」
「私は無理よ。わかってるでしょ?」
魔族と精霊とは契約は出来ない。
「あのねレイフォン? ボク泣くよ? 幼女虐待になるよ? いいの?」
「いや、泣けよ」
「マリベル~」
見た目を活かしてあざとくマリベルに抱きつく神様。
「レイフォンさん! こんな幼い神様ちゃんを泣かせるなんて。レイフォンさんは子供が好きじゃなかったんですか?」
神様を守るようにギュッと抱きしめレイフォンを怒るマリベル。
レイフォンは面倒そうな表情を浮かべていたのであった。
(とりあえずあれ(神様)、どっかで捨てるか)
お読み頂きありがとうございました。
今年もどうぞ宜しくお願い致します。




