Episode 138
レストランで食事をしている女子三人。
「あの……レイフォンさんに声をかけなくて良かったんですか?」
「今はあいつの話はしないでくれる……モグモグ」
マリベルに機嫌が悪そうに言葉を返して、黙々と料理を食べるアシュリー。
「え? ミリベアス? アシュリーはどうしたんですか?」
理由がわからないマリベルはアシュリーは答えてくれないと判断してミリベアスへと尋ねた。
「このワインをもう一本頂けるかしら?」
「かしこまりました」
「なにかしら、マリベル?」
店員にワインを注文してから聞き返すミリベアス。
酒を飲んでいるのはミリベアスだけ。
「アシュリーはどうしたんですか?」
「アシュリー? ああ、ただレイフォンを捕まえる事が出来なかったのが悔しかっただけよ」
「そ、それだけですか?……」
「気になるのならアシュリーに直接聞きなさい。私は忙しいの」
ミリベアスは飲む事、食べる事に忙しかった。
理由が気になるマリベルはアシュリーに視線を向け、一呼吸してから再び声をかけた。
「あの……アシュリー?」
「レイの話はしないでよマリベル……モグモグ」
「えっ、でも……」
「でもも何でも今日はレイの話は禁止よ。わかった? わかったならマリベルも食べなさい」
「でも……」
「でも?」
レイフォンに向ける時のような笑っていない目をマリベルに向け見せるアシュリー。
「何でもないです……食べます……」
アシュリーの迫力に押され聞くのを断念したマリベル。
(やっぱり変よね。そうだわ! 明日、レイフォンさんに聞いて……あ……でも、どんな顔して話せばいいのか……)
マリベルは鬼ごっこの最中にレイフォンに自分の思いを伝えようとしていた時の事を思いだし、顔を赤くさせていた。
「マリベル? 貴女、顔が赤いわよ? 貴女が飲んでいるのはジュースよね?」
「えっ? な、何でもないです!」
「ん?」
焦って両手を振るマリベルを見て首を傾げるミリベアス。
「ミリベアス、私にもそのお酒を寄越しなさい」
「駄目よ。貴女はまだ飲める歳ではないでしょ?」
「いいから寄越しなさいよ!」
「いくらレイフォンを捕まえられずに負けた、いえ、レイフォンのお嫁さんになれなかったからってーー」
「ち、違うわよ! あとレイの話は今日は禁止! いいから早く私にもお酒をーー」
アシュリーがミリベアスからワインを奪おうとした
その時
「あ! お姉ちゃん達だ!」
三人の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ルン、大きな声を出しちゃダメよ」
「そうだぞルン」
「でも、アシュお姉ちゃんは大きな声をだしてるよ?」
「あれは地声だ」
今日は顔を見たくないと思っていた少年の声。
レストランに入ってきたのは少し着飾ったレイフォン、アイラ、ルンの三人の姿だった。
(ど、どうしてレイが)
アシュリーはレイフォンならレストラン(高級)には来ないだろうとこの店を選んでいたのである。
「あれ? アシュのやつが怒ってこない?」
「……怒らせたかったのレイ兄さんは?」
不思議そうな表情を浮かべるレイフォンに苦笑いで声をかけたアイラ。
「いや、そうじゃないけど、って、まさか、ミリベアスお前アシュに酒を飲ませただろ?」
「飲ませてないわよ」
「じゃあ、なんで……」
アシュリーが怒ってこない理由を真顔で考えるレイフォン。
「あの……それは流石にアシュリーに失礼だと思いますよレイフォンさん」
苦笑いでレイフォンに声をかけたマリベル。
「冗談だよ。そうだ、丁度いい。今日はアイラの誕生日でお前らもーー」
一緒に祝ってくれないか? と、レイフォンが話そうとしている途中だった。
アシュリーが突然、席を立ち上がり
「私は今日は先に帰るわ……」
と、ひとことだけ言ってから足早に店から出ていってしまったのであった。
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