Episode 136
「さてと、残り時間もわずかだけど、どうするんだ?」
「どうするも何もレイを捕まえるに決まってるでしょ? ミリベアス、あれで行くわよ」
「悪いのだけれどあれ? って何の事かしらアシュリー?」
アシュリーにあれと言われてもまったく心当りのないミリベアスは首を傾げている。
「……えっと……その……」
口ごもるアシュリー。
アシュリーはただ勢いであたかも作戦があるように言っただけなのである。
「そんなんで大丈夫なのか?」
レイフォンはアシュリーが適当に言っていた事に気づいており、呆れていた。
「うるさいわね! とにかく! あれよ! あれ!」
そんなレイフォンにムッとした表情で言い返し、ミリベアスにはないあれ(作戦)をと言い張るアシュリー。
「まっ、いいわ……あれね」
ミリベアスはやれやれといった表情でないあれ(作戦)に頷いた。
「そ、そうよあれよ! レイ覚悟しなさい!」
自分でもおかしな事を言っているとの自覚のあるアシュリーは少し動揺を見せたあと、レイフォンに対して腕を伸ばし指を突きさした。
「覚悟って言われてもーーって、危なっ!?」
「あら? これも避けるのね」
レイフォンがアシュリーに言葉を返しているとうしろからミリベアスが大きな黒い鎌で斬りかかってきた。
「なんだよ、そのデカイ鎌は?」
「わたくしの武器よ。あっ、かするだけで猛毒が体に充満すると思うけど、レイフォンなら大丈夫よね? 死なないんだから」
はじめて見るミリベアスの武器(鎌)。
ミリベアスは簡単な説明をした。
「いや、俺は別に不死身じゃーーって、次は魔法剣かよ! っと」
「避けるな!」
「避けるわ!」
今度はミリベアスに言葉を返しているとアシュリーが炎の魔法剣エンファートで斬りかかってきた。
「なんだなんだ。接近戦にーー」
「やぁー!」
「って、話の途中で斬りかかってくるなよ!」
「話を聞いて欲しかったら捕まりなさいよ。はぁー!」
「おっと、誰が捕まーー」
「わたくしの事も忘れないでくれるかし、ら!」
「ほっ、と」
挟み込まれ2人からの連続攻撃をすれすれではあるが難なく避けるレイフォン。
「避けるなって言ってるでしょ! やぁー!」
「っと、いや、避けないと死ぬからな俺?」
「大丈夫よ!」
「おっと、ほっ、ミリベアスは楽しそうだな」
「そうね。けど攻めるだけじゃ物足りないわ。わたくしは実は責められるより受けるほうがーー」
レイフォンに攻撃しながら何故か顔を赤らめて話すミリベアス。
「なんの話だよ!」
「よそ見するなー!」
「してねぇよ、っと」
それからもふたりの攻撃は続いた。
「いい加減に空気を読みなさいよレイ!」
「なんの空気だよ」
「みんなレイが捕まる事に期待しているのよ! レイが勝っても面白くないじゃない」
「そんなの知らねぇよ」
「いいから大人しくーー」
捕まれとアシュリーが言葉を続けようとした、その時ーー
カーン カーン カーン
鬼ごっこ終了の鐘の音が鳴った。
「大人しくなんだって?」
ニヤニヤとした表情でアシュリーに向け言葉の続きを聞くレイフォン。
「…………」
膝を着き項垂れるアシュリー。
「とりあえず今回も俺の勝ちだな」
「……なんだかあっけない終わりね」
レイフォンが勝利宣言したあと、ミリベアスがポツリと呟いた。
「…………納得いかないわ」
「納得も何もはじめから俺が勝つ事は決まってたんだから仕方ないだろ? ほら、いいから広場に戻るぞ」
「残念だけどレイフォンのお嫁さんになるのは次の機会ね」
「ん? 何の話だ?」
「レイ? 覚えていないの?」
「何がだ?」
「その……私達がレイを捕まえ勝ったら……」
「マリベルも含めてわたくし達三人をお嫁さんにするって約束よ」
モジモジとして言いにくそうにしているアシュリーの代わりにミリベアスが答えた。
「ああ、何かそんな事言ってたな確か。そういえば伯爵様とも何か賭けをしていたような? まっ、どっちにしろ俺が捕まって負ける事なんてなかったんだし、どんな約束だろうと賭けだろうと別に何でもよかったんだけどな」
「「……」」
どうでもいいかのようにあっけらかんと話すレイフォンに対して複雑な表情を浮かべるアシュリーとミリベアス。
「どうした?」
「レイは私と……」
「なんだ?」
「なんでもないわよ! その顔がムカつくからさっさと先に広場に行きなさいよ!」
「ん? 俺を捕まえられなかったからってそんな怒るなよ。まっいいや、勝利者の俺は先に行くからな」
そして、レイフォンはひとり広場の方へと駆け出した。
残ったふたり。
「レイのバカ……」
「今回は仕方ないわよ。遊びみたいなものだったんだから。それに……」
「それに何よ?」
「教えてあげないわ」
「なんでよ!」
「ふふふ、少しは自分で考えなさい。わたくしもお腹が空いてきたから行くわよ」
小さく笑い微笑みを見せたあと、ミリベアスは転移魔法を使い姿を消した。
「えっ、ちょっとミリベアス!」
ひとり残されたアシュリーは
「なんなのよ、もう!」
何とも言えない気持ちをぶつけるように空に向かって叫んだのであった。
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