Episode 135
テスターの街大鬼ごっこでレイフォンを捕まえたと見なされる条件は布である。
レイフォンが腕に巻いている青い布を奪えば捕まえたと見なされるのである。
逆にレイフォンを捕まえる参加者、鬼側が巻いている赤い布をレイフォンが奪う事も認められている。
赤い布を奪われる、もしくは紛失してしまうと失格になるとの特別ルールももうけられていた。
流石の人数差に配慮された特別ルールなのだが、レイフォンには奪う気はなかった。
それでは鬼ごっこでは無くなってしまうと思ったから。
それにそれだと簡単に自分が勝利してしまって面白く無いとの余裕の考えもあったからである。
ーーーー
「くっ、どうして全然当たらないのよ!」
「本当ね……。というか本当に魔法を使ってないのよね? それでわたくしの魔法を簡単に避けるなんて本当にレイフォンは人間なのかしら?」
森の中ではじまったレイフォンを捕まえる為の戦い。
戦いと言ってもレイフォンはただただ2人の攻撃を避けているだけではあるが。
それが既に三十分ほど続いていた。
「ほ~ら。残り三十分だぞ? 魔法も使ってない俺にかすりもさせる事が出来ないなんて本当に『英雄の女神様』と魔王の……っと、これは秘密だったな。とにかくだ。だらしないぞお前ら」
アシュリーと流石のミリベアスまでもが息を切らす中、レイフォンは平然としていた。
「ムカつくわ……」
「そうね……流石にこれは屈辱的だわ」
「えっ? 何か言ったか聞こえないぞ? ちゃん声を出せよ。声をしっかりと、ほら」
本当は聞こえているがわざと聞こえないふりをして、ニヤニヤとした表情で聞き直すレイフォン。
いつのまにかレイフォンはスイッチが入っていた。
そんなレイフォンの言葉はとまらない。
「ほら、アシュは炎竜姉妹を呼んでもいいんだぜ? ミリベアスは変身とか出来るんじゃねぇのかよ? ほらほら時間がないんだから本気でこいよ」
挑発するレイフォン。
「変身?」
「炎竜姉妹?」
アシュリーとミリベアスは互いを見合っていた。
「あっ、悪い。お前ら互いに知らなかったんだな」
「えっ、何をよ?」
「いや流石の俺でもこれ以上は個人情報を漏らすにはいかない。とにかくだ。何でもいいから俺を楽しませてくれよ。はっはっは!」
「よくわからないのだけど……」
「あいつを黙らせるのが先よ」
アシュリーの言葉に黙って頷いたミリベアス。
「というか、戦闘狂じゃなくて鬼ごっこ狂って何なのよあいつは……いつもはやる気なんて見せないくせに、なんで今そんなにやる気を見せているのよ」
「あのレイフォンだけはやっぱりわたくしは認められないわ」
高笑いするレイフォンを見て互の思いを呟いた2人。
その時だったーー
「食らえ~! レイフォン!」
見知らぬ少女、いや成長した人間の姿の神様がどこから現れたのかレイフォンを目掛けて攻撃をしてきたのである。
手には長い棒が握られている。
だが
「うわわわ!?」
棒は簡単に捕まれ神様ごと高く持ち上げられた。
「まだいたのかよ?」
「いたのかよじゃないよ! 下ろしてよレイフォン!」
高く持ち上げられた棒の先端付近にしがみついている神様。
そんなふたりのやりとりを見ていたアシュリーが声をかける。
「だれよその子?」
続けてミリベアス。
「もしかして四番目かしら?」
ミリベアスはともかくアシュリーにも誰だかわかっていなかった。
「何を言ってるんだ? こいつは男だぞ?」
「どこ見て判断してるんだよ! ボクは女の子だよ! と言うか早く下ろしてよ!」
「あれ? その話し方ってもしかして……」
神様の話し方を聞いて正体に気づいたアシュリー。
「アシュリー知ってるの?」
「いや……その……」
ミリベアスに尋ねられ言ってもいいのか悩むアシュリー。
「あっ、ミリベアスは知らなかったな。こいつは神様だ」
「神、様?」
躊躇なく正体をバラしたレイフォン。
ミリベアスは考えるそぶりを見せる。
「ちょっ! 何を簡単にバラしているんだよレイフォン! あと、早く下ろしてくれないかな?」
「別にいいだろ? 大した事じゃないんだし。あと、下ろさない」
「色々となんでだよ!」
レイフォンの返しに思わずツッコミを入れた神様。
「ちょっと待って。神様ってまさかあの子犬のことかしら? 人間の姿ってまさか精霊獣だったの? やっぱり見た時にどこかおかしいと感じていたのよね」
神様は名前だと思い込み正体が精霊獣だと勘違いしているミリベアス。
「いや、そうじゃなくて神様はーー」
「ストーップ! そ、そうだよ。ボクは実は精霊獣だったんだ。だから人間の姿にもなれるんだよ」
訂正しようとするレイフォンを慌ててとめて自分は精霊獣だと名乗り出した神様。
「なるほどね。だからあの時わたくしは違和感を感じたのね……」
ミリベアスは納得した表情を見せている。
「神様? 嘘はよくないと思うぞ?」
「レイフォン? 人の個人情報を勝手に漏らすのはいくないとボクは思うんだよね。そして、早く下ろしてくれないかな?」
「つか、人じゃないだろ? あと、下ろさない」
「なんでさ!」
再びはじまるふたりのやりとり。
しかし、アシュリーが思い出したように声を出した。
「あっ! そういえば私達はレイを捕まえる途中だったんだわ!」
「そうだったわね」
「そういことなんで神様? 邪魔しないで貰えますか?」
「え? 邪魔ってボク?」
アシュリーにまさか自分が邪魔者扱いされるとは思わなかった神様はキョトンとした表情を浮かべていた。
「確かに俺もこのままだと動きづらいしな。神様? お望み通りに下ろしてやるよ」
「え?」
神様がレイフォンの言葉に反応した次の瞬間だった。
レイフォンは神様ごと棒を上空に勢いよく投げ飛ばしたのである。
「えっ? ちょっ、待っーーーーーー」
成長しようが美少女になろうが雑な扱いが変わらない神様は、レイフォンの手によって強制退場させられたのであった。
遠く飛ばされた神様の着地地点。
「レイフォンはともかくアシュリーまで出会ったばかりの頃はボクの事をあんなに可愛がってくれていたのに……どうしてこうなったのさ……ボク神様だよ……」
神様は座り込み地面に文字を書きながらしょぼくれるように呟いていた。
地面には
『レイフォンのアホ!!』
と書かれていた。
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