Episode 133
神様がレイフォンの前から逃げるように走りっ去った頃。
広場から離れた場所では、アシュリーが炎竜姉妹からレイフォンの状況報告を受けていた。
『アシュリー? レイフォン様を捕まえるなら今がチャンスだぜ』
『そうね。わかったわ』
「ミリベアス、そろそろ行くわよ」
「ん? どこに?」
「レイを捕まえに行くのよ。今はどうやらレイはくつろいで油断しているみたいだし」
「そうなの? わかったわ」
レイフォンを捕まえる事をミリベアスに伝えたアシュリー。
ミリベアスはよくわからないまま首を傾げたあとに返事をした。
(待ってなさいレイ)
ーーーー
「じゃあ、俺はそろそろ行くな」
ルンを膝から下ろして椅子から立ち上がりおもむろに言葉を発したレイフォン。
「レイお兄ちゃんどこに行くの?」
そんなレイフォンを見上げて尋ねるルン。
「どこって、逃げるんだよ」
「どうして?」
ルンは首を傾げている。
「怖~い鬼がこっちに近づいて来ているみたいだからな」
「鬼さん? 怖い?」
「そうだ。俺はその鬼に何度殺されそうになったことだか……」
ルンにレイフォンが答えていると
「……レイフォンさん? それってもしかしてアシューー」
マリベルが話に入ってきた。
そして、レイフォンが言う鬼が誰の事だかわかったマリベルは名前を述べようとしたが
「ストップだマリベル。名前は言うな。俺が殺される」
と手を前に出し止めた真面目な表情のレイフォン。
「殺されるって……」
マリベルは呟き苦笑いを浮かべた。
「とにかくだ。そういうことだから俺は行くからな? んじゃな」
「あっ、レイフォンさん!」
手を上げてこの場所から離れようとしたレイフォンを椅子に座ったまま、マリベルが呼び止める。
「ん? なんだ?」
首だけ振り返るレイフォン。
「その……頑張らないでください」
「は? そこは普通は頑張ってくださいだろ?」
マリベルの言葉に呆れたように返すレイフォン。
「いや……それは……」
顔を俯かせモジモジとするマリベル。
(なんだよこいつ?)
レイフォンがそう思っていると
「レイお兄ちゃんがんばって!」
「レイ兄さん頑張って」
ルンとアイラの姉妹ふたりから応援の声がかけられた。
「おう。ほら、これが普通だからな?」
2人に笑顔で答えるレイフォン。
そして、マリベルへと視線を向ける。
「わかりました。では……レイフォンさん頑張って捕まってください」
「いや、それおかしいだろ? お前は俺の事嫌いなのかよ」
マリベルの言葉に再び呆れるレイフォンは、思った事を言葉にした。
すると
「ち、違います! これはその……」
マリベルは声を張り慌てて否定し、また俯きモジモジとしはじめた。
(だから何なんだよこいつは?)
レイフォンはミリベアスと交わした負けたら(捕まったら)なんでもするとの賭けの事など覚えていなかった。
「まっいい。とにかく俺は今度こそ行くからな? アイラとルンはこの鬼ごっこが終わったらご馳走だから腹空かしとけよ。じゃあ、また後でな」
そこまで気にしていないレイフォンは2人に言葉をかけると、すぐに駆け出し去っていったのであった。
レイフォンが去ってからもまだ俯きモジモジとしているマリベルは
「わ、私はですね。レイフォンさんの事は嫌いじゃなくてですね、そのむしろ……なんと言いますか……そのですね……」
恥ずかしそうにひとり話していた。
レイフォンがすでに去って居なくなっている事に気づいていないマリベル。
「その……だから……私は!…………? あれ?」
意を決し何かを言うおうとして顔を上げたマリベル。
だが、目の前には
ニコっと笑顔のルンの姿がそこにはあった。
しかも
「マリお姉ちゃん。ドンマイだよ。でも、あきらめないで」
との言葉付きである。
「え?」
まさかのルンからの励ましの言葉に、キョトンとした表情になってしまったマリベル。
アイラは苦笑いを浮かべていた。
(ルン……わかって言ってるの? あと、どこで覚えてきたのよ……)
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