Episode 132
鬼ごっこ終了まで残り二時間。
「なんて体力してやがる……はぁー はぁー」
「まったくだぜ……はぁー はぁー」
「追い付きそうでまったく距離が縮まねぇ……はぁー はぁー」
「くそ……はぁー はぁー」
レイフォンを目の前にして多くの参加者達が息を切らし、膝を付いたり、座り込んだりとしていた。
一方のレイフォンはというと
「もう追いかけてこないんですか? 終わりですか? まだ時間はありますよ? ほら、俺は目の前にいますよ? ほらほら、捕まえにきてくださいよ」
息ひとつ切らす事なく余裕の表情を浮かべながら参加者達を見渡し、挑発するように言葉を投げかけていた。
「あの野郎」
「調子に乗りやがって」
「ムカツクなあの顔」
そんなレイフォンを睨みつけながら言葉を漏らす参加者達。
すぐに立ち上がり捕まえたい気持ちはあるのだが、追いかけ走りっぱなしだった参加者達の足や体力は限界に達していた。
「あれ? 立ち上がらないんですか? いや、立ち上がれないんですよね。ぷぷっ」
わざとらしく笑い、明らかな挑発をするレイフォン。
「何を笑ってやがる!」
「そうだそうだ!」
「調子に乗んなよレイフォン!」
「かかってこいやー!」
睨みを強め、怒鳴るように言葉を返す参加者達。
「かかってこいってのは俺が言うセリフですよ。つか、飽きたんで俺はそろそろ行きますね? まっ頑張ってください。そんじゃ」
睨みつけられようが怒鳴られようが気にしないレイフォンは言葉を言い残したあと、笑みを浮かべて手を振りながら参加者達を置き去りにして、この場所から走り去って行ったのであった。
ーー
場所を離れたレイフォンはスタート地点の広場に戻って来ていた。
「ふぅー 喉が潤うぜ」
「あのレイフォンさん?」
「なんだ?」
「なんでレイフォンさんがこんなところでのんびりと飲み物を飲んでいるんですか?」
「そ、そうだよレイ兄さん。逃げないと捕まっちゃうよ」
左右から話しかけてきたのはマリベルとアイラ。
レイフォンは広場に用意してあるマリベル達の座るテーブルの椅子に座っていた。
「レイお兄ちゃん、わたしも飲む~」
「ほらよ」
しかもルンを膝に乗せて。
「大丈夫だって。俺が捕まる事なんてありえないから。なっ、ルン?」
「ん? うん!」
首を傾げたあと元気に返事をしたルン。
その時だった。
「ついに見つけたよレイフォン。ふははは!」
フードを深く被り顔を隠し、笑うひとりの人物がレイフォン達の目の前に現れた。
腕には赤い布を巻いている。
つまり、参加者(鬼)である。
「ほ、ほらレイ兄さん早く逃げないと」
「あわわわ、ど、どうしましょう」
何故かレイフォンではなくアイラとマリベルが焦っていた。
「なんでふたりが焦るんだよ? で」
『神様は何をしてんの? 男の姿で?』
神様だと正体を瞬時に見抜いたレイフォンは頭に直接話しかけた。
「えっなんで!? って! ボクは男ちゃうもん!」
すぐにバレてしまった事に焦り、そしてすぐに大きな声で否定をしてきた神様。
レイフォン以外から見れば突然と大声を出してきた変な人に見えるわけで
「レイお兄ちゃん? このお兄ちゃんどうしたの?」
ルンは不思議そうにレイフォンを見上げ尋ね、マリベルとアイラも首を傾げていた。
「このお兄ちゃんはなルン? 変質者って言うんだぞ?」
「へんしゅちゅ、しゃ?」
首を傾げるルン。
「おしいな。けどまっいいか。とにかくこういう変な人には関わっちゃいけないからな?」
「わかった~!」
「偉いなルンは」
元気に返事をしたルンの頭をにこやかな表情で撫でるレイフォン。
神様は俯き肩を震わせていた。
「レイフォンさん……」
「レイ兄さん……」
レイフォンと神様を交互に見るマリベルとアイラは言葉に困っていた。
『というわけで変質者帰れ』
再び神様の頭に直接言葉をかけたレイフォン。
すると
神様の震えは強まり、そして
「ボ、ボクは変質者じゃな~い! それに男でもない! ほ、ほらよく見てごらんよこのボクを」
フードを頭から取り素顔をさらした神様。
その顔は確かに男性の顔ではなく少女、それも美少女と言ってもいい整った顔立ちをしていた。
「「キレイ……」」
神様の素顔を見たマリベルとアイラは思わず見とれてしまっていた。
「ふふーん♪ これでわかったよね?」
そんなふたりに気付いたのか、神様は得意気な表情を浮かべている。
「レイお兄ちゃん?」
「どうしたルン?」
「あのへんしゅつしゃさん女の人みたいだね?」
ルンは神様の顔を見たあと、ある部分を見てそう言った。
言われてレイフォンもその部分を見て
「……だな。ぷっ」
と今にも吹き出しそうな表情で言葉を返した。
得意気な表情から一転して、ふたりからのある部分への視線を感じた神様は顔を急に赤くさせてその部分、胸を両手で押さえ隠した。
そして
「どこ見てるのさ! 見るなー! レイフォンのアホ~!」
突然と叫んだあと、何処かへと逃げるように走り去って行った神様。
神様も女性である。
気にしていたのである。
(つか、神様は何をしたかったんだ?)
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